腎メサンギウム細胞の機能を考える前に、形質転換を考える
メサンギウム細胞は、特定の条件下で形質転換を起こし、他の細胞タイプに変化することができます。特に、以下のような細胞に変わることが知られています:
筋線維芽細胞:メサンギウム細胞は、慢性的な糸球体傷害の際に筋線維芽細胞に形質転換することがあります。筋線維芽細胞は、フィブロネクチンなどの細胞外マトリックスを過剰に産生し、糸球体硬化を引き起こします1。
平滑筋細胞:メサンギウム細胞は、平滑筋細胞の特徴を持つ細胞に変化することがあります。これには、平滑筋αアクチンやコラーゲンの発現が関与しています2。
これらの形質転換は、腎臓の健康や病態進展において重要な役割を果たしています
メサンギウム細胞にはさまざまなホルモン,成長因子,
血管作動性因子および細胞外基質の受容体が発現してお
り,メサンギウム細胞の形態維持,機能制御に重要な役割
メサンギウム細胞に存在する機能蛋白
を担っている。以下,生理的・病的条件下において発現し
ている受容体分子,その他の機能分子について簡単に紹介
する。
1 .Thy-1
Thy-1 はマウスの胸腺細胞抗原であり,ラットのメサン
ギウム細胞の表面には Thy-1.1 抗原が発現し,メサンギウ
ム細胞のマーカーとして使われている。前述したが,Thy-
1.1 分子に対する抗体をラットに注射することにより,メ
サンギウム細胞は補体依存性に傷害され,メサンギウム細
胞障害性腎炎が惹起される(ATS 腎炎モデル)。このモデル
は,糸球体障害の発生・進展および修復に関する研究に大
きく貢献してきた12)。最近の研究から,メサンギウム細胞
表面の Thy-1 分子がシグナル伝達機能をもち細胞間接着
分子として働いている可能性が示され,メサンギウム細胞
と内皮細胞の相互作用,糸球体微小循環の制御,さらには
糸球体硬化への進行機構を解明していくうえで,Thy-1 は
興味ある機能分子と言える13,14)。
2 .細胞増殖因子・炎症因子・血管作動性物質に対する
受容体
メサンギウム細胞は,重要な細胞成長因子(PDGF,
TGF-β),炎症因子(TNF-α,各種 interleukin),および血管
作動性物質(angiotensin Ⅱ,endothelin)などの受容体を発現
しており,メサンギウム細胞の増殖,肥大,収縮,遊走お
よび細胞外基質産生調節と深く関わり合っている15~17)。
3 .細胞外基質に対する受容体
メサンギウム細胞は各種基質成分に対する受容体を発現
している。特にβ1 integrin およびαvβ3 integrin は細胞と細
胞外基質の相互作用において主要な分子である18,19)。細胞
外基質成分はメサンギウム細胞表面の基質受容体を介して
メサンギウム細胞の phenotype,細胞増殖,遊走などを制御
している20)。
4 .Glucose transporter
メサンギウム細胞は 2 種類のグルコース・トランス
ポーター,すなわち facilitative and sodium-coupled transporters および brain type glucose transporter(GLUT-1)を発現し
ている。GLUT-1 の発現レベルはメサンギウム細胞の細胞
外基質産生と関連していて21),糖尿病状態における細胞外
グルコースの細胞内取り込みとの関連も指摘されている。
5 .Renin-angiotensin-aldosterone(RAA)系に関する受
容体
1 )Angiotensin Ⅱ受容体
メサンギウム細胞に angiotensin Ⅱの受容体(Ⅰa とⅠb)
が存在し,細胞の収縮および細胞外基質産生に関わってい
る15)。
2 )Renin/prorenin 受容体
メサンギウム細胞にはレニン・プロレニンの受容体も存
在し,細胞表面の renin/prorenin の cofactor(補助因子)とし
て,renin および prorenin の酵素活性による angiotensinogen
の分解作用を促進する22,23)。一方で,レニンはこの受容体
を介してメサンギウムにおける TGF-βの発現を誘導し,
PAI-1,fibronectin,collagenⅠなどの発現を促進することが
報告されている24)。腎局所における renin-angiotensinaldosterone 系と腎疾患進行との関連については,上述の受
容体が深く関わっていると予想され,従来からの ARB,
ACEI によるアンジオテンシンⅡ阻害による腎保護作用に
加え,レニン,プロレニン,アルドステロンなどの阻害に
よる機構も興味ある課題である22,23)。
3 )Mineralocorticoid 受容体
ミネラロコルチコイド受容体が培養ラットメサンギウム
細胞に強く発現していることが,最近明らかとなった25)。
アルドステロンが培養メサンギウム細胞の細胞増殖や基質
産生を促進させることも報告され25~28),血行動態を介さず
線維化を引き起こす機構も想定されている。
6 .Megsin
ヒトメサンギウム細胞に高発現するメグシン29() megsin)
は,新規 serpin superfamily に属し,セリンプロテアーゼの
抑制因子としての作用をもつ。megsin mRNA は糸球体メサ
ンギウム細胞に正常でも発現し,糖尿病性腎病および IgA
腎症では発現が増強する。ヒト megsin を高発現する遺伝子
組み換えマウスでは,メサンギウム増殖および糸球体免疫
複合体の沈着が認められる。