HCV抗体について
2005年3月に「C型肝炎対策等に関する専門家会議」が設置され、2006年から感染症対策特別促進事業に肝炎診療協議会を各都道府県に設置を盛り込み、慢性肝炎を含む総合的な肝炎対策を充実強化した。2007年1月には「全国C型肝炎診療懇談会」でまとめられた「都道府県における肝炎検査後肝疾患診療体制に関するガイドライン」に基づき、各都道府県に肝疾患診療拠点病院体制が整備された。しかし、肝炎に対する訴訟において、国の責任を認める判決が相次ぎ、2007年11月には大阪高裁から和解勧告が出された。それを受けて、2008年1月には国会で薬害肝炎被害に対する国の責任が明記され、徹底した患者救済策の施行を求めている「薬害肝炎被害救済法」が成立した。これにより、肝炎ウイルスキャリア早期発見のための検査体制の整備、IFN治療に対する医療費助成などの施策が始まった。2009年に肝炎対策基本法が成立し、2010年1月から施行され、肝炎治療促進のための環境整備、肝炎ウイルス検査の促進、健康管理の推進と安全・安心の肝炎治療の推進、肝硬変・肝がん患者への対応、国民に対する正しい知識の普及、研究の推進の肝炎総合対策が施行されている。下記にその詳細を列挙する。
(1) 肝炎治療促進のための環境整備
肝炎治療に係る医療費助成を行っている。インターフェロン治療又は核酸アナログ製剤治療を必要とするB型及びC型肝炎患者がその治療を受けられるよう、医療費を助成する。
(2) 肝炎ウイルス検査の促進
○ 保健所における肝炎ウイルス検査の受診勧奨と検査体制の整備
・ 検査未受検者の解消を図るため、利便性に配慮した検査体制を整備する。
・ 出張型の検査を行うことにより、個別の受検機会を提供する。
○ 市町村等における肝炎ウイルス検査等の実施
・ 40歳以上の5歳刻みの方を対象とした肝炎ウイルス検診の個別勧奨を実施。
(3) 健康管理の推進と安全・安心の肝炎治療の推進、肝硬変・肝がん患者への対応
○ 診療体制の整備の拡充
・ 都道府県において、中核医療施設として「肝疾患診療連携拠点病院」を整備し、患者、キャリア等からの相談等に対応する体制(相談センター)を整備するとともに、国が設置した「肝炎情報センター」において、これら拠点病院を支援する。
○ 就労に関する相談支援体制の強化
・ 肝疾患診療連携拠点病院の肝疾患相談センター等において産業カウンセラー、社会保険 労務士などを配置し、就労に関する問題に対し、適切な情報提供や相談支援を行う。
(4) 国民に対する正しい知識の普及
○ 肝炎総合対策推進国民運動による普及啓発の推進
・ 多様な媒体を使用しての普及啓発や民間企業との連携を通じて、肝炎総合対策を国民運動として展開する。
(5) 研究の推進
○ 肝炎等克服緊急対策研究事業
・ C型肝炎ウイルス等の持続感染機構の解明や肝硬変における病態の進展予防及び新規治療法の開発等を行う、肝炎に関する基礎、臨床、疫学研究等を推進する。
○ 難病・がん等の疾患分野の医療の実用化研究事業(肝炎関係研究分野)
・ 肝炎感染予防ガイドラインの策定等、肝炎総合対策を推進するための基盤に資する行政的研究等を実施する。
○ B型肝炎創薬実用化等研究事業
・ 大規模スクリーニング等の創薬研究や臨床研究等、B型肝炎の新規治療薬等の開発等に資する研究を推進する。
HCVは一本鎖RNAウイルスで、フラビウイルス科の中でフラビウイルス属やペスチウイルス属とは異なるヘパシウイルス属に分類されている。HCVゲノムには主として6種類の遺伝子型に分けられている。電子顕微鏡での観察から、HCVは直径50~60nmの球状のウイルスで、外被(エンベロープ)とコア蛋白の二重構造を有するとされている。また、HCVは約9.6kbのプラス鎖RNAをゲノムとして持ち、約3,010アミノ酸からなるポリプロテインをコードできる一つの読み取り枠(open reading frame: ORF)を有している。この前駆体蛋白質から、細胞のシグナラーゼとウイルス自身がコードする2種類のプロテアーゼによって、ウイルス粒子を形成する構造蛋白(core、E1、E2、p7)とウイルス粒子に含まれない非構造蛋白(NS2, NS3, NS4A, NS4B, NS5A, NS5B)が産生される。ゲノムの5’末端には、ウイルス蛋白の翻訳調節に働く領域が存在している。この領域は、多様性の高いゲノム配列の中にあって、HCVクローン間で最もよく保存されており、HCV遺伝子検出に利用される。
HCV感染の予防はまず感染経路を遮断する事であり、以前はHCVの感染経路のうち輸血によるものが5割を占めていたが、我が国では1989年世界に先駆けて献血時にHCV抗体をスクリーニングするようになってから激減した。しかし、極めて稀であるが抗体を調べる方法では検出できない肝炎ウイルスの存在が問題となった。これらの輸血後肝炎の原因の多くは、血清学的検査法の「ウインドウ期」に献血された血液によるものである可能性が指摘されたため、「ウインドウ期」血液に含まれる極めて微量のウイルスを検出する高感度な検査法として、核酸増幅検査(nucleic acid amplification test; NAT)が導入された。1999年、日本赤十字 社はHCV、HBV、HIVの遺伝子を調べるNATセンターを設立した。全国で献血された血液は各地の血液センターでスクリーニングされた後、血清学的反応で陰性の血液すべてを東京(大田区)、京都(福知山)、北海道(千歳)のNATセンターで核酸レベルの検査を行っている。 献血後24時間以内に各血液センターに通知し、陽性血液は輸血用血液から除外して安全性を高めている。
C型肝炎の治療は、病気の活動度や進行状態によって方法や効果が異なるため、治療薬や治療方針の選択については専門医による判断が必要である。最も有効性が確立している抗HCV薬はインターフェロン(IFN)である。1992年にIFN単独 24週療法にて著効率は10%程度であったが、2001年12月からリバビリン(RBV)との併用療法に医療保険が適用されるようになり、2004年のPEG IFN製剤・RBV併用療法の導入により、著効率は50%となった。さらに2011年9月に国内承認された最初のプロテアーゼ阻害であるテラプレビル(TPV)により、著効率は70%まで達する見込みである。しかし、IFN療法でウイルスを排除できなかった場合でも、肝炎の進行を遅らせ、肝癌の発生を抑制、遅延させる効果を示すこともある。また、IFN、リバビリン投与が無効で、ALTなどの肝酵素値が正常範囲を超えた高値の場合には、抗炎症療法(肝庇護療法)によって肝細胞の損傷や肝臓の繊維化を抑えることで、肝疾患の進行を防ぐ治療が行われる。
最近、欧米ではHCVライフサイクルの基礎的な知見に基づいてウイルス蛋白を直接の標的として開発されたDirect Antiviral Agents(DAA)の臨床試験が進行している。米国NIHの臨床試験登録ホームページによると、2010年10月時点で、約50のDAAの臨床試験が進行中で、プロテアーゼ阻害剤、ポリメラーゼ阻害剤、NS5A阻害剤が中心で、Phase IIIに6薬剤が進んでいる。単独投与で高率に生じる薬剤耐性変異を抑え、最大限治療効果を上げるために、標的の異なる複数のDAAを併用する臨床治験が進行中であり、最近日本で行われたプロテアーゼ阻害剤とNS5A阻害剤の併用投与試験ではほぼ全ての症例でSVRを達成している。今後、日本ではIFNに依存しない経口DAA2剤または3剤併用投与が主流になるものと考えられる。
予防法として最も有効と思われるC型肝炎ワクチンは、依然として実用化されていない。C型慢性肝炎患者の血液中には、HCV蛋白に対する様々な特異的抗体が産生されるものの、ゲノムの多様性やエンベロープ蛋白にアミノ酸が変異しやすい領域が存在することなどから、中和抗体は産生されにくい。また、感染に伴ってT細胞応答も惹起されるが、例えばB型肝炎などの場合と比べてウイルス特異的な細胞性免疫は誘導されにくいと考えられる。このようなことが要因となって、HCVは宿主の免疫監視機構から逃れ、高率に持続感染が成立するものと考えられている。
感染症法における取り扱い(2012年7月更新)
「ウイルス性肝炎(E型肝炎及びA型肝炎を除く)」は全数報告対象(5類感染症)であり、診断した医師は7日以内に最寄りの保健所に届け出なければならない。
2024年8月26日 | カテゴリー:肝疾患すい臓疾患 |