網膜色素変性について
網膜色素変性(retinitis pigmentosa:RP)は,視細胞お
よび網膜色素上皮細胞を原発とした進行性の広範な変性
がみられる遺伝性の疾患群である.多くは病初期に杆体
の変性が現れる.杆体の変性が先行し,徐々に錐体の変
性が生じるものを杆体錐体ジストロフィと称するが,RP
は一般にこれと同義的に理解されている.これらととも
に,生後早期に網膜変性を発症する Leber 先天盲,感音
難聴を合併する Usher 症候群や全身疾患に合併するも
の,脈絡膜の変性を主体とするものなども含めて 「網膜
色素変性とその類縁疾患」 と一括りにして記載されるこ
ともある.錐体の機能障害から始まる錐体(杆体)ジスト
ロフィおよび,眼底の黄斑に両眼性,進行性の病変を呈
する黄斑ジストロフィは別の疾患群として区別されるこ
とが多い.RP は,2015 年 1 月 1 日より国が定める 110
疾病の指定難病の一つに認定された
遺伝子異常によって起こり,多くは単一遺伝子疾患で
ある.RP と関連する遺伝子が,現在 60 種以上報告され
ている(https:// / / sph.uth.edu/Retnet/).1 つの遺伝子の中
で複数の変異が原因として同定されているため,総数で
は 3,000 種以上の遺伝子変異が報告されている.RP に
関連する遺伝子の多くは,視覚サイクル,光シグナルト
ランスダクションなどの機能,視細胞の構造や維持に関
連するもの,網膜色素上皮で働く遺伝子であるが,機能
が未解明のものも少なくない.常染色体優性(AD:15〜
17%),常染色体劣性(AR:25〜30%),X 連鎖性(XL:
0.5〜1.6%)のいずれかの遺伝形式をとるが,家系内に他
の発症者が確認できない孤発例(SP:49〜56%)も存在す
る1)2).
本邦では 4,000〜8,000 人に 1 人の割合で発症する.
1990 年の厚生省班研究の全国疫学調査では,日本全国の
患者数は約 23,000 人と推定され,2013 年の医療受給者
証保持者数厚生労働省患者調査では,27,937 人である.
疾患頻度に関する人種差は小さいが,社会の婚姻に関
連する習慣や宗教に基づく近親婚の頻度に影響を受け
る.原因となる遺伝子の変化や変異の種類の頻度には違
いがある.常染色体劣性 RP において,我が国では
EYS 遺伝子の変異が 20〜30% を占めるのに対し3)4),海
外では USH2A 遺伝子の変異が多くを占める5).また,
常染色体優性 RP においては,米国および欧州ではロド
プシン遺伝子の変異が約 25% に認められるが6),我が
国では低頻度である7)8).
常染色体遺伝を示すものでは,性差はほとんどない.
X 連鎖性遺伝の場合は,女性は保因者になるかごく軽度
の臨床症状を示すのみで,発症に至る例はきわめてまれ
である.
) 視覚障害に占める頻度
RP は,先天盲の第 1 位を占め,また緑内障,糖尿病
網膜症に次いで成人視覚障害原因疾患の第 3 位に位置す
る(2006 年度の全視覚障害者数は約 310 万人で,2001 年
度と比較し増加傾向である
網膜色素変性診療ガイドライン 847
Ⅰ.定型網膜色素変性:杆体錐体ジストロフィ
Ⅱ.非定型網膜色素変性
.無色素性網膜色素変性
.片眼性網膜色素変性
.区画性網膜色素変性
.中心型,傍中心型網膜色素変性
.色素性傍静脈周囲網脈絡膜萎縮
.白点状網膜症
Ⅲ.全身疾患に合併する網膜色素変性
.Usher 症候群
.Bardet-Biedl 症候群
.ムコ多糖症(Hurler 症候群,Scheie 症候群,Hunter
症候群,Sanfilippo 症候群)
.Kearns-Sayre 症候群
.成人型 Refsum 病
.乳児型 Refsum 病
.その他(Alagille 症候群,Bassen-kornzweig 症候群,
Cockayne 症候群,Hallervorden-Spatz 症候群,Rud
症候群など)
Ⅳ.網膜色素変性の類縁疾患
.Leber 先天盲
.コロイデレミア
.クリスタリン網膜症
.脳回転状網脈絡膜萎縮
2024年8月31日 | カテゴリー:外科/耳鼻科/眼科的疾患, その他 |