一酸化窒素NOについて
体内では栄養素のアルギニンやシトルリンが一酸化窒素へと変換される。アルギニンは体内では腸管および腎臓の協同にてアンモニアから合成されるので、主として蛋白を摂取すればよい。
一方、近年ではアルギニンの他に野菜等に含まれる硝酸塩も体内にて一酸化窒素の原料として利用されているという見方をする主張もある
生体内では一酸化窒素は、一酸化窒素合成酵素 (NOS) によってアルギニンと酸素とから合成される。
一酸化窒素は細胞内の可溶型グアニル酸シクラーゼを活性化してサイクリックGMP (cGMP) を合成させることによりシグナル伝達に関与する。
マクロファージは病原体を殺すために一酸化窒素を産生する。しかしこれは逆に悪影響を及ぼすこともある。敗血症ではマクロファージが一酸化窒素を大量に産生し、それによる血管拡張が低血圧の主因となると考えられている。
一酸化窒素は神経伝達物質としても働く。シナプス間隙のみで働く多くの神経伝達物質と異なり、一酸化窒素分子は広い範囲に拡散して直接接していない周辺の神経細胞にも影響を与える。このメカニズムは記憶形成にも関与すると考えられている。
窒素酸化物(NO、NO2等)を吸入するとへモグロビンの鉄が酸化されて、酸素運搬能力のないメトヘモグロビンが生成し、メトヘモグロビン血症になることがある
血管内皮は一酸化窒素をシグナルとして周囲の平滑筋を弛緩させ、それにより動脈を拡張させて血流量を増やす。
これがニトログリセリン、亜硝酸アミル、一硝酸イソソルビド(5-ISMN,アイトロール)などの亜硝酸誘導体が心臓病の治療に用いられる理由である。
これらの化合物は一酸化窒素に変化し、冠動脈を拡張させて血液供給を増やす。
発毛剤ミノキシジル(リアップ)は cGMPの分解を抑制して毛細血管の血流量を増やす。
一酸化窒素は陰茎勃起でも働いており、同じく cGMP分解抑制薬であるシルデナフィル(バイアグラ)はこの機構を利用したものである。
一酸化窒素を気管内に吸入させることにより、肺動脈の血管平滑筋を弛緩させて、肺高血圧を改善させることができる。新生児の新生児遷延性肺高血圧や、開心術後の心臓の負荷軽減、原発性肺高血圧症の治療などに利用されるが、日本では保険適応外の先端治療扱いである。
静脈に比べて、動脈は酸素が多く、NOはNO2やHb-NO (ニトロソヘモグロビン) になりやすい。
NOは静脈を拡張させ、心臓の前負荷を減少させる薬理作用を持つことから、冠動脈疾患の他にも心不全・高血圧緊急症に用いられる。