べ-チェット病について
ベーチェット病は、目、口、皮膚、外陰部のほか、中枢・末梢神経、消化管、関節、血管をおかす全身性の疾患である。口腔粘膜、皮膚、眼、外陰部において慢性炎症が持続するのではなく、急性炎症が反復することを特徴とし、増悪と寛解を繰り返しながら遷延化した経過を辿る難治性疾患である。
ベーチェット病は、日本、中国、韓国や中近東、地中海沿岸に多く、「シルクロード病」と呼ばれることもある。日本国内のベーチェット病の患者数は約2万人といわれ、30代後半に最も多く発症する。
本症の病態は針反応に代表される好中球の異常活性化が病態の中心となる血管炎である。その他好中球以外に血管因子、リンパ球の因子も病態に関与する。誘因が明らかでない炎症所見、高力価の自己抗体や自己応答性T細胞を認めない、
先天的な自然免疫の異常が認められるという点からは成人スティル病、クロ-ン病、痛風、偽痛風などとともに自己炎症症候群という疾患概念でまとめられることもある。
その他の膠原病と比べての特徴として、自然寛解がわりと多くみとめられることがあげられる。
ベーチェット病紅斑部位での組織において、好中球浸潤とphospho-STAT-3陽性細胞がみられることから、Jak-Stat経路の関与も検討されている。TYK2, Jak2 上流のIL-12受容体、IL-23受容体でのSNP変異も報告されている。
扁桃炎を契機に発症する例があり、口腔アフタを生ずる例ではストレプトコッカス・サングイヌスと呼ばれるグラム陽性球菌の関連が示唆されている。
神経べ-チェット
ベーチェット病の約10-20%に認められる。約2-5倍男性に多い。20-40歳が好発である。神経症状は発症後3-6年後に出現する(ベーチェット病診断後)ことが多いが、神経症状が初発となる場合もある。神経ベーチェット病の分類は実質性病変(脳幹、大脳、脊髄病変)80%と非実質性病変(血管病変、動脈瘤など)20%に分かれ、実質性病変はさらに急性型、慢性型に分かれる。
急性型は髄膜炎症状+局所症状を示し、ステロイド反応性良好である。
慢性型は急性型の経過の後に神経障害、精神症状が進行する。脳幹、大脳、小脳の萎縮を伴い、髄液IL-6>20pg/ml(SLEなどでも上昇する)などが特徴的な検査所見となる。ステロイド抵抗性でありMTX少量パルス療法が(7.5-15mg/week)が有効とされている。眼ベーチェット病と用いられるシクロスポリンは神経ベーチェット病を増悪、誘発させる。
神経ベーチェット病の類縁疾患に神経Sweet病(neuro-Sweet disease)がある。sweet病は発熱、末梢好中球増加、好中球浸潤性紅斑などを呈する全身性炎症性疾患だが、脳炎や髄膜炎を併発した場合は神経Sweet病と呼ばれる。HLAのタイプでB54とCw1の頻度が際立って高いことなどが知られているが、これらを含む複数の危険因子が発症に関与していることが示唆されている。神経ベーチェット病とは頻度の多いHLAは異なるが、他の共通の発症因子を有する一つの疾患スペクトラムを構成していると考えられている。
眼症状 日本では、ブドウ膜炎をおこす代表的疾患の一つである。再発いうこの疾患の特徴を最も適確に表現し、患者は突然視力がなくなったり、また改善したりということを直接的に自覚する。ぶどう膜炎があまりに激しいと、肉眼で前眼房にたまる膿を視認できるという。
厚生労働省ベーチェット病診断基準(2016年小改訂)
1.主要項目
(1)主症状
- 口腔粘膜の再発性アフタ性潰瘍
- 皮膚症状
- 結節性紅斑様皮疹
- 皮下の血栓性静脈炎
- 毛嚢炎様皮疹、痤瘡様皮疹
参考所見:皮膚の被刺激性亢進
- 眼症状
- 虹彩毛様体炎
- 網膜ぶどう膜炎(網脈絡膜炎)
- 以下の所見があれば(a)(b)に準じる
(a)(b)を経過したと思われる虹彩後癒着、水晶体上色素沈着、網脈絡膜萎縮、視神経萎縮、併発白内障、続発緑内障、眼球癆
- 外陰部潰瘍
(2)副症状
- 変形や硬直を伴わない関節炎
- 精巣上体炎(副睾丸炎)
- 回盲部潰瘍で代表される消化器病変
- 血管病変
- 中等度以上の中枢神経病変
(3)病型診断の基準
- 完全型:経過中に4主症状が出現したもの
- 不全型:
- 経過中に3主症状、あるいは2主症状と2副症状が出現したもの
- 経過中に定型的眼症状とその他の1主症状、あるいは2副症状が出現したもの
- 疑い:主症状の一部が出現するが、不全型の条件を満たさないもの、及び定型的な副症状が反復あるいは増悪するもの
- 特殊病変:完全型または不全型の基準を満たし、下のいずれかの病変を伴う場合を特殊型と定義し、以下のように分類する。
- 腸管(型)ベーチェット病―内視鏡で病変(部位を含む)を確認する。
- 血管(型)ベーチェット病―動脈瘤、動脈閉塞、深部静脈血栓症、肺塞栓のいずれかを確認する。
- 神経(型)ベーチェット病―髄膜炎、脳幹脳炎など急激な炎症性病態を呈する急性型と体幹失調、精神症状が緩徐に進行する慢性進行型のいずれかを確認する。
2.検査所見
参考となる検査所見(必須ではない)
- 皮膚の針反応の陰・陽性
20~22Gの比較的太い注射針を用いること - 炎症反応
赤沈値の亢進、血清CRPの陽性化、末梢血白血球数の増加、補体価の上昇 - HLA-B51の陽性(約60%)、A26(約30%)。
- 病理所見
急性期の結節性紅斑様皮疹では中隔性脂肪組織炎で浸潤細胞は多核白血球と単核球の浸潤による。初期に多核球が多いが、単核球の浸潤が中心で、いわゆるリンパ球性血管炎の像をとる。全身的血管炎の可能性を示唆する壊死性血管炎を伴うこともあるので、その有無をみる。 - 神経型の診断においては髄液検査における細胞増多、IL-6増加、MRIの画像所見(フレア画像での高信号域や脳幹の萎縮像)を参考とする。
3.参考事項
- 主症状、副症状とも、非典型例は取り上げない。
- 皮膚症状の(a)(b)(c)はいずれでも多発すれば1項目でもよく、眼症状も(a)(b)どちらでもよい。
- 眼症状について
虹彩毛様体炎、網膜ぶどう膜炎を経過したことが確実である虹彩後癒着、水晶体上色素沈着、網脈絡膜萎縮、視神経萎縮、併発白内障、続発緑内障、眼球癆は主症状として取り上げてよいが、病変の由来が不確実であれば参考所見とする。 - 副症状について
副症状には鑑別すべき対象疾患が非常に多いことに留意せねばならない(鑑別診断の項参照)。鑑別診断が不十分な場合は参考所見とする。 - 炎症反応の全くないものは、ベーチェット病として疑わしい。また、ベーチェット病では補体価の高値を伴うことが多いが、γグロブリンの著しい増量や、自己抗体陽性は、むしろ膠原病などを疑う。
- 主要鑑別対象疾患
- 粘膜、皮膚、眼を侵す疾患
多型滲出性紅斑、急性薬物中毒、Reiter病 - ベーチェット病の主症状の1つをもつ疾患
- 粘膜、皮膚、眼を侵す疾患
口腔粘膜症状 慢性再発性アフタ症、Lipschutz陰部潰瘍 皮膚症状 化膿性毛嚢炎、尋常性痤瘡、結節性紅斑、遊走性血栓性静脈炎、単発性血栓性静脈炎、Sweet病 眼症状 サルコイドーシス、細菌性および真菌性眼内炎、急性網膜壊死、サイトメガロウイルス網膜炎、HTLV-1関連ぶどう膜炎、トキソプラズマ網膜炎、結核性ぶどう膜炎、梅毒性ぶどう膜炎、ヘルペス性虹彩炎、糖尿病虹彩炎、HLA-B27関連ぶどう膜炎、仮面症候群 - ベーチェット病の主症状および副症状とまぎらわしい疾患
口腔粘膜症状 ヘルペス口唇・口内炎(単純ヘルペスウイルス1型感染症) 外陰部潰瘍 単純ヘルペスウイルス2型感染症 結節性紅斑様皮疹 結節性紅斑、バザン硬結性紅斑、サルコイドーシス、Sweet病 関節炎症状 関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、
強皮症などの膠原病、痛風、乾癬性関節症消化器症状 急性虫垂炎、感染性腸炎、クローン病、薬剤性腸炎、腸結核 精巣上体炎(副睾丸炎) 結核 血管系症状 高安動脈炎、Buerger病、動脈硬化性動脈瘤 中枢神経症状 感染症・アレルギー性の髄膜・脳・脊髄炎、
全身性エリテマトーデス、脳・脊髄の腫瘍、
血管障害、梅毒、多発性硬化症、精神疾患、
サルコイドーシス症状・検査
症状:以下の4つの症状が特徴的といわれます。
- 口内炎:「再発する」「痛い」のが特徴的、
- 皮膚症状:手足に赤くて痛い発疹(結節性紅斑様皮疹)やにきびのような発疹(毛嚢炎様皮疹)など、
- 陰部潰瘍:陰部に痛い潰瘍(傷が深くえぐれたようになった状態)、
- 眼症状:おもに眼のぶどう膜という部分に炎症が起こり、「眼の充血」「眼の痛み」「見えにくさ」「眩しさを強く感じる」といった症状が出ます。
4つすべての症状が出る人もいれば(完全型)、一部しか出ない人もいます(不全型)。これらに加えて、
- 関節(関節の痛み・腫れ)、
- 精巣(「精巣上体炎」による睾丸の痛み・腫れ)、
- 消化管(腹痛、下痢・血便など)、
- 血管(動脈瘤:首や腕の血管に「コブ」ができる、静脈血栓症:「足が腫れて痛い」、肺血栓塞栓症:「息苦しい」「胸が痛い」など)、
- 神経(頭痛、手足の麻痺や感覚異常など)に症状が出てくる人もいます。
消化管・血管・神経病変を持つ人は「特殊型」と本邦ではいわれます。