全身性強皮症について
強皮症には全身性強皮症と限定性強皮症があり、両者は全く異なる疾患ですので、この区別がまず重要です。限局性強皮症は皮膚のみの病気で、内臓を侵さない病気です。
全身性強皮症は皮膚や内臓が硬くなる変化が特徴です。>>>これを線維化といいます 限局性強皮症の患者さんが、医師から単に「強皮症」とだけいわれて、全身性強皮症と間違えて不必要な心配をしていることがしばしばありますので注意が必要です。
大切な点は全身性強皮症の中でも病気の進行や内臓病変を起こす頻度は患者さんによって大きく異なるということです。患者さんによっては病気はほとんど進行しないことから、従来欧米で使われていた「進行性」全身性硬化症という病名の「進行性」という部分はこの病気には適切でないことから、今は使われなくなりました。 このように全身性強皮症の中でもいろいろなタイプ(病型といいます)があることがわかってきたことから、国際的には全身性強皮症を大きく2つに分ける病型分類が広く用いられています。 つまり、典型的な症状を示す「びまん皮膚硬化型全身性強皮症」と比較的軽症型の「限局皮膚硬化型全身性強皮症」に分けられています。 前者は発症より5~6年以内は進行することが多く、後者の軽症型では進行はほとんどないか、あるいはゆっくりです。この病型分類のどちらに当てはまるかによって、その後の病気の経過や内臓病変の合併についておおよそ推測ができるようになりました。 |
- 過去にさまざまな病型分類が提唱されてきたが,国際的には,LeRoy & Medsger の提唱した び ま ん 皮 膚 硬 化 型 SSc[diffuse cutaneous SSc
- (dcSSc)]と限局皮膚 硬 化 型 SSc[limited cutaneousSSc(lcSSc)]の 2 型分類にほぼ統一されて使用されるに至っている。
- わが国においても本病型分類を採用したい.dcSSc と lcSSc の病型分類は,基本的には皮膚硬化の範囲によって規定され,肘関節より近位に至るものを dcSSc,遠位に留まるものを lcSSc とるが,他の要因を加味して総合的に判断することが,この病型分類の特徴とも言える.極めて病初期で進行が急速なものの肘関節を越えて皮膚硬化が拡大していない例や,皮膚硬化が軽度でありながら,活動性の肺線維症を伴う例などの取り扱いについても種々の背景を勘案して決める
- 全身性強皮症(SSC)の症状
1.レイノー症状:
冷たいものに触れると手指が蒼白~紫色になる症状で、冬に多くみられ、初発症状として最も多いものです。治療としては保温が大切です。
- 皮膚硬化:
皮膚硬化は手指の腫れぼったい感じからはじまります。人によっては手のこわばりを伴います。また、今まで入っていた指輪が入らなくなったことで気づかれることもあります。典型的な症状を示す患者さんでは、その後、手背、前腕、上腕、体幹と体の中心部分に皮膚硬化が進むことがあります。注意してほしい点は、すべての患者さんで皮膚硬化が体幹まで進行するわけではないということです。つまり、前述した「びまん皮膚硬化型全身性強皮症」では時に体幹まで硬化が進行しますが、「限局皮膚硬化型全身性強皮症」では体幹の硬化はきわめてまれです。 - 他の皮膚症状:
爪上皮(爪のあま皮)の黒い出血点、指先の少しへこんだ傷痕、指先や関節背面の潰瘍、毛細血管拡張、皮膚の 石灰沈着 、皮膚の色が黒くなったり、逆に黒くなった皮膚の一部が白くなったりする色素異常などがみられます。特に、指先や関節背面に潰瘍ができたときには、自分で処置をせず、主治医に処置してもらうことが大切です。 - 間質性肺疾患(間質性肺炎・肺線維症):
ひどくなると空咳や息苦しさが生じ、酸素吸入を必要とすることもあります。前述した「 びまん型 全身性強皮症」で比較的多く見られる合併症です。肺線維症があると細菌が感染しやすくなり、肺炎を起こしやすいので注意が必要です。痰が増えたり、発熱が生じたら直ぐに主治医に連絡して下さい。 - 強皮症腎クリーゼ(※) :
腎臓の血管に障害が起こり、その結果高血圧が生じるものです。急激な血圧上昇とともに、頭痛、吐き気が生じます。 ACE阻害薬 という特効薬による早期治療が可能ですので、このような症状が起きたときには、直ぐに主治医に連絡して下さい。 - 逆流性食道炎(※) :
食道下部が硬くなり、その結果胃酸が食道に逆流して起こるもので、症状としては胸焼け、胸のつかえ、逆流感などが生じます。現在は症状を抑える治療法が開発されていますので、このような症状がでたときには主治医に相談して下さい。 - その他の症状:
手指の屈曲拘縮、関節痛、便秘、下痢などが起こることがあります
副腎皮質ステロイドは皮膚硬化に有用か?
推奨文:
副腎皮質ステロイド内服は,発症早期で進行してい
る例においては有用である.
推奨度:B
解説:
SSc の皮膚硬化に副腎皮質ステロイドが有用である
ことを立証した報告は少ないが,Sharada らによる 35
例を対象とした無作為二重盲検試験でデキサメサゾン
静注パルス療法(月 1 回 100 mg,6 カ月間)の有効性
を示した報告がある5).治療群(n=17)では MRSS
が 28.5±12.2 から 25.8±12.8 に低下したが,対照群
(n=18)で 30.6±13.2 から 34.7±10 へ増加したと報告
されている.また,Takehara は,コントロールのない
後ろ向き研究ではあるが,早期の浮腫性硬化を呈し急
速に進行している 23 例に対して低用量ステロイド内
服 を 行 っ た 結 果,MRSS が 20.3±9.3 か ら 1 年 後 に
12.8±7.0 に低下したことを報告している6).
このように,ステロイドの有効性を示す十分な科学
的データには欠けるが,ステロイドは,発症早期で現
在皮膚硬化が進行している症例に限っては経験的に有
効であると考えられており,当ガイドライン作成委員
会のコンセンサスを得て推奨度を B とした.CQ2 に示
した治療の対象となる SSc 患者に対して,プレドニゾ
ロン(PSL)20~30 mg日を初期量の目安として投与
する.皮膚硬化の重症度が very severe に相当する例
(TSS が 30 以上の例)には,ステロイドパルス療法を
考慮してもよい.初期量を 2~4 週続けて,皮膚硬化の
改善の程度をモニターしながら,その後 2 週~数カ月
ごとに約 10% ずつゆっくり減量し,5 mg日程度を当
面の維持量とする.皮膚硬化の進展が長期間止まる,
あるいは萎縮期に入ったと考えられれば中止してよ
い.
副腎皮質ステロイド投与にあたって,SSc 患者で特
に問題になるのが腎クリーゼを誘発する可能性であ
る.欧米に比べて日本人では腎クリーゼの発症率は低
いが,CQ4 で述べるように十分に注意しながら投与
副腎皮質ステロイド投与は腎クリーゼを誘発
するリスクがあるか?
推奨文:
副腎皮質ステロイド投与は腎クリーゼを誘発するリ
スク因子となるので,血圧および腎機能を慎重にモニ
ターする.
推奨度:B
解説:
副腎皮質ステロイド投与は皮膚硬化に有効であると
考えられる反面,腎クリーゼを誘発するリスクが以前
より指摘されてきた.欧米における 3 つの後ろ向き研
究において,ステロイドの使用と腎クリーゼの発症に
相関が認められている.Steen らは,ケースコントロー
ル研究で,6 カ月以内に PSL 換算 15 mg日以上のステ
ロイド内服していた例の 36% が腎クリーゼを発症し
たのに対し,対照群では 12% であったと報告されてお
り(OR[95% CI]:4.4[2.1~9.4],P<0.0001),可能
であれば PSL 換算 10 mg日に抑えるように推奨され
ている7).DeMarco らは,腎クリーゼ発症例の 61% が
過去 3 カ月間にステロイド内服があったと報告してい
る(RR[95% CI]:6.2[2.2. 17.6])8).また,1989 年の
Helfrich らの報告においても,正常血圧腎クリーゼ発
症例で,過去 2 カ月以内に PSL 換算 30 mg日以上の
ステロイド内服していた例が多かった(64% v.s. 16%)
とされている9).なお,Penn らは,単施設における 110
例の腎クリーゼ患者の後ろ向きの解析によって,ステ
ロイドの使用の有無によって腎クリーゼの予後には違
いはなかったと報告している10).
腎クリーゼ発症のリスクは,抗 RNA ポリメラーゼ
抗体陽性例に高いことが示されている.本邦では,抗
RNA ポリメラーゼ抗体の陽性率は欧米に比べて低い
と推定されており11),日本人 SSc 例における腎クリー
ゼ自体の発症率も欧米に比べて低い.
ステロイド投与が考慮される患者は,発症早期で皮
膚硬化が高度あるいは急速に進行している例であるこ
とから,腎クリーゼの高リスク群と重複している.上
述のように副腎皮質ステロイド投与によって腎クリー
ゼ誘発のリスクが上がるかどうかに関しては必ずしも
明確なエビデンスはないが,ステロイド投与にあたっ
ては,血圧および腎機能を慎重にモニターすることは
有用である.特に抗 RNA ポリメラーゼ抗体陽性と考
えられる例では十分な注意が必要である.
D―ペニシラミンは皮膚硬化に有用か?
推奨文:
D―ペニシラミンは SSc の皮膚硬化を改善しないと
考えられている.
推奨度:C2
解説:
D―ペニシラミンは 1966 年に SSc の皮膚硬化を改善
すると報告されて以来12),その有用性について多くの
報告があり13),SSc の治療にしばしば用いられてき
た.しかしながら,1999 年に dcSSc 早期例を対象とし
て,大量の D―ペニシラミン(750~1,000 mg日)と少
量の D―ペニシラミン(125 mg日,隔日)の投与群を
比較する二重盲検試験が行われた.その結果,この両
群間には皮膚硬化に有意差は認められなかった14).こ
の試験は倫理上の問題からプラセボではなく少量の
D―ペニシラミンとの比較であったが,D―ペニシラミン
は有効ではないと考えられるようになっている.一方,
2008 年に Derk らは,後ろ向きの無作為コホート研究
によって,D―ペニシラミンの皮膚硬化に対する有効性
を報告している15).しかしながら,D―ペニシラミンは
副作用も高頻度であり,現在多くの専門家がその有用
性に対して否定的に考えていることから,積極的に使
用すべきではないと考えられる