自己免疫性脳下垂体炎のときの自己抗体
膠原病による脳下垂体炎では、いくつかの自己抗体が検出されることがあります。特に多く検出される自己抗体としては、以下のものが挙げられます:
抗核抗体(ANA): 多くの膠原病で検出される一般的な自己抗体です。
抗DNA抗体: 全身性エリテマトーデス(SLE)などでよく見られます。
抗リン脂質抗体: 抗リン脂質抗体症候群(APS)に関連し、血栓症や神経症状を引き起こすことがあります。
抗下垂体抗体: 特に脳下垂体炎に関連する自己抗体です。
これらの自己抗体は、膠原病の診断や治療の指標として重要です。)CNSループス
ACR分類のうち,12の中枢神経症状が挙げら
れているが,その病態は多様であり複数の機序
が推定される.ここではCNSループスとして,
①SLEに伴う自己抗体・免疫複合体による直接的
な中枢神経障害,②SLEに伴う中枢血管障害,③
SLEに伴う脊髄障害に分類する.
SLEに伴う中枢神経障害の病態機序のひとつと
して,自己抗体や免疫複合体による神経細胞障
害が考えられる.具体的な原因抗体は同定され
ていないが,CNSループスに関連すると考えら
れる自己抗体として,末梢血中の抗リボソーム
P抗体や抗Sm抗体,髄液中の抗NR2抗体が注目
されている.
検査として,頭部MRI(magnetic resonance
imaging),髄液検査,脳波検査,脳血流検査な
どを症状に応じて行う.頭部MRIでは特異的な
異常所見はないが器質性変化の有無の評価が可
能である.髄液検査では感染症の否定,血液脳
関門の透過性亢進の有無(髄液血清アルブミン
比)や,IgGindex,オリゴクローナルIgGバンド
での中枢神経内抗体産生の亢進の評価,ミエリ
ン塩基性蛋白による髄鞘障害の有無の評価など
を行う.また,厚生労働省研究班によるループ
ス精神病の分類予備基準では髄液IL-6が4.3pg
ml以上に上昇することを挙げている.上述の末
梢血中の抗リボソームP抗体や抗Sm抗体の存在
があればよりSLEによる中枢神経障害を疑う根拠
となる.これらの検査にて器質的異常を捉えら
れない場合もある.
治療は,ステロイドを中心とした免疫治療を
行い,ステロイドのみで改善が乏しい場合には
シクロホスファミド大量間歇静注療法や血液浄
化療法を行う.抗ヒトCD20ヒト・マウスキメラ
抗体からなるモノクローナル抗体であるリツキ
シマブの有効性も報告されている.髄液検査で
細胞数の上昇がある場合にはSLEによる自己免疫
性の髄膜炎か,細菌性・ウイルス性髄膜炎など
の感染性髄膜炎であるか鑑別が困難であること
がある.CNSループスのときはCRPが上昇しな
いことを参考にしつつCNSループスに対するス
テロイドを中心とした免疫治療と抗菌治療・抗
ウイルス治療を並行して行う.ステロイド投与
中に精神症状が出現し,検査等により器質的異
常が捉えられない場合にはステロイド精神病と
の鑑別が問題となる.一般的にステロイドによ
る精神症状は躁や欝といった気分障害が中心で
あり,激しい幻覚・妄想やけいれん,意識障害
が出現することは少ない.またSLE患者では,通
常精神症状が起こらない程度のステロイド投与
量で精神症状を呈することが多く,ステロイド
投与に伴う精神症状がCNSループスによるもの
である可能性がある.ステロイド投与後に精神
症状の悪化が見られても,直ちにステロイドを
減量するのではなく一時的な増量も考慮し数日
間経過を観察し,明らかにステロイド依存性で
あると判断されるならばステロイド減量および
シクロホスファミド療法などへの代替を検討す
る.
SLEによる中枢経障害機序として,血管障害が
ある.これには抗リン脂質抗体症候群(APS)に
よる血栓症,血管炎による虚血性障害などが含
まれ,両者の合併もありうる.頭部MRIによる
脳梗塞所見および抗リン脂質抗体の存在があれ
ばAPSの診断は比較的容易である.SLE患者にお
いては,ステロイド治療あるいは原疾患に伴う
高血圧,糖尿病,脂質異常症などの動脈硬化リ
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日本内科学会雑誌 第101巻 第8号・平成24年8月10日
内科疾患と脳神経疾患:診断と治療の進歩
トピックス
スクを持っていることも少なくないため,これ
らの一般的な危険因子による脳梗塞の発症の可
能性も考慮する.血管炎の診断はMRAや血管造
影での血管径の広狭不整所見が有用である.APS
に関しては別項にて解説する.画像所見等によ
りSLEに伴う血管炎と診断した場合にはステロイ
ド剤を中心とした免疫療法および抗血小板剤の
投与を検討する.
3 つめの中枢神経障害として,脊髄炎がある.
ただし,これまでSLEの中枢神経症状として捉え
られていた脊髄炎には,抗アクアポリン4抗体
(抗AQP4抗体)によるneuromyelitisopticaspec
trum disorder(NMOSD)が含まれている可能性
がある.ACR基準によりNPSLEと確定診断され
た50症例の検索では脊髄症を呈した症例が1
例あり,同例は抗AQP4抗体が陽性であり,他の
神経徴候を呈した症例はすべて陰性であった4).
また,神経症状を呈した結合組織病(疑診も含
む)96症例における検索では,Longitudinally
extensive transverse myelitis(長大な脊髄病変
を伴う横断性脊髄炎)や再発性視神経炎などの
NMOSD症状に高い感度と特異性を持って抗
AQP4抗体が認められている5)ことから,SLE
で見られる脊髄炎(および視神経炎)の多くは
NMOSDの合併である可能性が高い.
診断のための検査として,脊髄MRI,血液検
査(抗AQP4抗体検査を含む),髄液検査(ウイ
ルス感染や寄生虫などの感染症を除外する)や
体性感覚誘発電位や視覚誘発電位(視神経異常
が示されればNMOの可能性が高くなる)などの
電気生理検査を行う.脊髄においても血管障害
が起こりうることも考慮する.治療は,抗AQP4
抗体が陽性であればNMOSDとしてステロイドパ
ルスや血液浄化療法を行う.抗AQP4抗体が陰性
であった場合にはseronegative NMOSDである
かSLEに伴う脊髄障害なのか判断することは困難
である.脊髄炎の経過がSLEの活動性と相関があ
るようであれば,CNSループスとして治療を行
2024年11月11日 | カテゴリー:内分泌疾患・ホルモン異常, 免疫疾患 |