低マグネシウム血症
低マグネシウム血症(ていマグネシウムけっしょう)は、血液中のマグネシウム濃度が低下した状態を指します。
具体的には、血清マグネシウム濃度が1.8mg/dL(0.70mmol/L)未満となった場合を言います12。
低マグネシウム血症は,血清マグネシウム濃度の測定により診断される。重度の低マグネシウム血症では通常,濃度が1.25mg/dL(0.50mmol/L)を下回る。低カルシウム血症および低カルシウム尿症の随伴が一般的である。尿中カリウム排泄の亢進を伴う低カリウム血症および代謝性アルカローシスが認められることがある。
原因
- 摂取不足:食事からのマグネシウム摂取が不足している場合。
- 吸収不良:腸からのマグネシウム吸収がうまくいかない場合。
- 排泄増加:高カルシウム血症や利尿薬(例:フロセミド)の使用により、尿中への排泄が増加する場合。
- 薬剤の影響:プロトンポンプ阻害薬やアムホテリシンBなどの薬剤が原因となることもあります。
症状
- 嗜眠(しみん)
- 振戦(しんせん)
- テタニー(筋肉のけいれん)
- 痙攣(けいれん)
- 不整脈(ふせいみゃく)
Trousseau徴候とは,手への血液供給を抑えることで誘発される手の攣縮であり,これを誘発するには駆血帯または収縮期血圧を20mmHg上回るように膨らませた血圧測定用カフで前腕を3分間加圧する。
Chvostek徴候とは,外耳道のすぐ前方の顔面神経を軽く叩打すると誘発される顔面筋の不随意収縮である。
神経学的徴候,特にテタニーは,随伴する低カルシウム血症,低カリウム血症,またはその両方の発生と相関する。筋電図上にミオパチー電位が認められるが,これは低カルシウム血症や低カリウム血症でも矛盾しない。
重度の低マグネシウム血症によって,全般性強直間代発作が起こることがあり,特に小児に多い。
診断と治療
診断は血清マグネシウム濃度の測定によって行われます。治療は主にマグネシウムの補充によります。軽度の場合は経口投与、重度の場合は静脈内投与が行われます12。
原因不明の低カルシウム血症または難治性の低カリウム血症がみられる患者では,たとえ血清マグネシウム濃度が正常範囲内であっても,マグネシウム欠乏症を疑うべきである。原因不明の神経症状およびアルコール使用障害を有する患者,慢性の下痢がみられる患者,またはシクロスポリンの使用,シスプラチンベースの化学療法,もしくは長期のアムホテリシンBもしくはアミノグリコシド系薬剤による治療後においてもまた,マグネシウム欠乏症を疑うべきである。
低マグネシウム血症の治療
マグネシウム塩の経口投与
重度の低マグネシウム血症がみられるか,または経口治療に耐えられない,もしくはそれを遵守できない場合,硫酸マグネシウムの静脈内投与または筋肉内投与
マグネシウム欠乏が症候性である場合,またはマグネシウム濃度が1.25mg/dL(0.50mmol/L)未満で持続する場合には,マグネシウム塩での治療が適応となる。アルコール使用障 害患者は経験的に治療する。このような患者では不足量が12~24mg/kgに近い可能性がある。
投与されたマグネシウムの約50%が尿中に排泄されるため,腎機能に異常のない患者には推定欠乏量の約2倍を投与すべきである。
経口マグネシウム塩(例,グルコン酸マグネシウム500~1000mg,経口,1日3回)は3~4日間にわたって投与する。経口治療は下痢の発症により制限される。
非経口投与は,重度の症候性低マグネシウム血症を有し,経口薬に耐えられない患者に限定される。
ときに,継続的な経口治療を遵守する可能性が低いアルコール使用障害患者では単回注射を行う。マグネシウムを非経口的に補充する必要がある場合には,10%硫酸マグネシウム溶液(1g/10mL)を静注用に,50%溶液(1g/2mL)を筋注用に利用できる。マグネシウム療法中,特に腎機能不全患者にマグネシウムを投与時または非経口反復投与時には,血清マグネシウム濃度を頻回にモニタリングすべきである。こうした患者では,正常範囲内の血清マグネシウム濃度を達成するまで治療を継続する。
重度の症候性低マグネシウム血症(例,マグネシウムが1.25mg/dL[0.5mmol/L]未満で,痙攣またはその他の重度症状を伴う)では,2~4gの硫酸マグネシウム溶液を5~10分間かけて静注する。発作が持続する場合は,計10gを最大量として,さらに6時間かけて投与を繰り返してもよい。発作が止まった患者には,5%ブドウ糖液1Lに10gを溶解して24時間かけて点滴し,続いて12時間毎に最大2.5gを投与して総マグネシウム貯蔵量の不足を補い,血清マグネシウム濃度のさらなる低下を防ぐ。
血清マグネシウム濃度が1.25mg/dL(0.5mmol/L)未満であるが症状がさほど重度でないときには,硫酸マグネシウムを5%ブドウ糖液に溶解して速度1g/時で最大10時間にわたりゆっくり静注するとよい。低マグネシウム血症の重症度がより低い場合には,血清マグネシウム濃度が正常範囲内となるまで3~5日間にわたって少量を非経口的に投与することによってゆるやかな補充を行える。
低カリウム血症または低カルシウム血症が併存する場合は,低マグネシウム血症の治療に加えて個々に対応すべきである。マグネシウムが補充されるまでは,これらの電解質異常を是正することは難しい。しかも,低マグネシウム血症の治療を単独で行うと,静注された硫酸マグネシウムがイオン化カルシウムに結合して低カルシウム血症が悪化することがある。
2024年9月7日 | カテゴリー:内分泌疾患・ホルモン異常 |