ガスダーミンについて
ガスダーミン(Gasdermin)は、細胞死の一種であるパイロトーシス(炎症性細胞死)に関与するタンパク質ファミリーの一つです。
特にガスダーミンD(GSDMD)は、細胞膜に孔を形成し、細胞内容物を放出することで炎症反応を引き起こします。
ガスダーミンDは、カスパーゼ-1やカスパーゼ-11によって切断されることで活性化され、細胞膜に孔を形成します。
この孔から細胞内の物質が流出し、炎症性サイトカイン(例えばIL-1β)が放出されることで、免疫応答が引き起こされます。
ガスダーミンは、感染症や炎症性疾患、さらにはがんの研究においても重要な役割を果たしていることが示されています
パイロトーシス実行因子: ガスダーミン
生体内では、遺伝的プログラムによって制御された細胞死が、アポトーシスに限らず、複数存在します。パイロトーシスもその1つです。パイロトーシスは、病原細菌に感染したマクロファージで見られる細胞膜破壊を伴う細胞死として最初、報告されました1)2)3)。炎症誘導性細胞死として知られ、免疫担当細胞(マクロファージ、樹状細胞、T細胞など)が病原微生物などに感染すると、カスパーゼ1が活性化し、細胞質の変性を伴った、ネクローシスに類似した形態学的特徴(細胞膜の孔形成、細胞の膨潤と破裂)を示します。その結果、炎症性サイトカインを含む細胞内容物が、病原微生物と共に細胞外へと放出され、周辺細胞に炎症を惹起することになります。 ガスダーミンD(Gsdmd / GSDMD)は、寄託者の城石先生(遺伝研在籍時)らが発見し、命名した新規遺伝子ファミリーの構成メンバーの1つで4)5)、パイロトーシスの過程において、カスパーゼ1を含む特定のカスパーゼの下流で基質として働く細胞質タンパク質です6)7)8)。ガスダーミンDは非刺激時には、細胞質内で不活性型前駆体として存在し、微生物感染後、カスパーゼによって切断されると、活性型のN末端断片が多量体化し、細胞膜に挿入されて、大きな孔を形成します9)。これによって、細胞膜破壊を実行します。 理研BRC実験動物開発室からは、ガスダーミンD遺伝子欠損マウス(RBRC10761)およびガスダーミンD遺伝子のfloxedマウス(RBRC10762)が提供可能です10)。本系統は、最近報告された”ガスダーミンDの有無に応じて、カスパーゼ1がパイロトーシスとアポトーシスという2つの異なる細胞死を誘導している”という研究成果にも貢献しています11)。自然免疫応答として、ガスダーミンDが存在する免疫担当細胞ではカスパーゼ1がパイロトーシスを引き起こすのに対し、ガスダーミンDが存在しない神経細胞等では、カスパーゼ1はアポトーシスを引き起こし、これが神経変性疾患(脳梗塞、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症など)の発症に関与していることが示唆されています。ガスダーミンDは生命現象の理解とともに、疾患に対する新規治療法の開発という観点からも注目の存在です。 また、当室には、ガスダーミン遺伝子ファミリーに属するガスダーミンAのLacZノックインマウス(RBRC10760)も寄託されています12)。ガスダーミンAは上皮組織で発現が見られ、現時点ではパイロトーシスとの関連について明らかになっていませんが、ガスダーミンAのN末端断片の配列はガスダーミンDのN末端断片と同様、細胞膜孔形成機能を有していることが報告されています13)。 |
2024年11月9日 | カテゴリー:免疫疾患 |