自己免疫性肝炎について
自己免疫性肝炎(AIH)は、免疫の異常によって肝臓の細胞が障害される慢性肝炎です。主な特徴は次のとおりです1:
- 症状: 通常は自覚症状がなく、健康診断で偶然発見されることが多いです。疲労感や食欲不振などが現れることもあります。
- 原因: 正確な原因は不明ですが、免疫異常が関与していると考えられています。遺伝的要因も一部影響している可能性があります。
- 診断: 血液検査や肝生検で行います。ASTやALTの上昇が示唆されます。
- 治療: ステロイド薬や免疫抑制薬を使用します。定期的なフォローアップが重要です。
- 予後: 適切な治療を受けると予後は良好で、死亡率は一般人口とほぼ同等です。
自己免疫性肝炎(じこめんえきせいかんえん)は、多くの場合には慢性に経過する肝炎で、肝細胞が徐々に障害されます。血液検査では肝臓の細胞が破壊される程度を表すASTやALTが上昇します。自己免疫性肝炎が発病するのには免疫の異常が関係していると考えられています。中年以降の女性に好発することが特徴です。原因がはっきりしている肝炎ウイルス、アルコール、薬物による肝障害、および他の自己免疫疾患による肝障害を除外して診断します。また、治療では副腎皮質ステロイドが有効です。英語での病名はAutoimmune hepatitisであり、頭文字を略してAIH(エー・アイ・エッチ)と呼ばれます。 |
研究班が2004年に行った調査では、全国に9,000人程度(人口10万人当たり9人)の患者さんがいると推定されましたが、2018年に再度行った調査では全国の患者数は推定30,000人(人口10万人当たり24人)であり、この14年間で患者数が約3倍に増加していました。 |
自己免疫性肝炎と診断される患者さんの男女比は1:4で、女性に多い病気です。中年女性に多く50歳から60歳代が発症の中心となっていますが、若い女性や小児での発症も珍しくはありません。近年の傾向として男性の患者さんが以前よりも増えており、また高齢化の傾向が見られています。 |
原因は不明です。血液検査で 自己抗体 ( 抗核抗体 や抗平滑筋抗体)が陽性で 免疫グロブリン 、ことにIgGの血中濃度が高く、副腎皮質ステロイドによる治療によく反応することなどから、自己免疫が関与していると考えられています。肝臓の組織検査でもリンパ球が多数肝内に存在し、肝細胞が障害されている像が認められます。ウイルス感染や薬剤服用、妊娠・出産後に発症する場合もあり、これらが発症の引き金となる可能性が報告されています。 |
Ⅱ.診断 1. 抗核抗体陽性あるいは抗平滑筋抗体陽性 2. IgG高値(>基準上限値1.1倍) 3. 組織学的にinterface hepatitis や形質細胞浸潤がみられる 4. 副腎皮質ステロイドが著効する 5. 他の原因による肝障害が否定される 典型例 上記項目で、1~4のうち3項目以上を認め、5を満たすもの。 非典型例 上記項目で、1~4の所見の1項目以上を認め、5を満たすもの。 |
遺伝することはありませんが、日本人では60%の症例でHLA-DR4陽性、欧米ではHLA-DR3とHLA-DR4 陽性例が多いことから、その発症に何らかの遺伝的因子が関与していると思われます。しかし、PBCとは異なり、AIHの発症に関与する遺伝子は見つかっていません。親子や兄弟など家族内で発症する例もありますがごくまれです。 |
通常は自覚症状がなく、健診などで偶然発見されることが多いようです。 全身倦怠感 、疲労感、食欲不振などの症状を訴える方もおられます。急性肝炎として発症する場合は、倦怠感、 黄疸 、食欲不振などの症状がみられますが、自己免疫性肝炎に特徴的な症状はありません。病気が進行した状態で発見される場合もあり、肝硬変へ進行した状態では、下肢のむくみ、腹水による腹部の張りや吐血(食道静脈瘤からの出血)などの症状がおきることがあります。 |
治療の基本は免疫抑制薬の内服で、まず副腎皮質ステロイドという飲み薬を使用します。副腎皮質ステロイドであるプレドニゾロンを、発症時には30~40mg/日(病状が重い場合には50~60mg/日)服用します。これによって肝機能検査値は改善しますので、推移を見ながらプレドニゾロンの量を5~10mg/日までゆっくり減らします。治療の目標は肝機能検査値、ことにALTとIgGの正常化です。当初から、あるいはプレドニゾロンの減量中に、アザチオプリンという別の薬を50~100mg/日で一緒に服用する場合もあり、これによってプレドニゾロンの減量を早めたり、中止したりできる場合があります。ただ、副腎皮質ステロイドあるいはアザチオプリンを両方とも完全に中止すると、多くの場合、自己免疫性肝炎が 再燃 し、肝機能検査値が再び悪化してしまうため、数値が安定する最低量のプレドニゾロンないしアザチオプリンを維持量として、長期間内服する必要があります。減量の途中、あるいは維持量内服中に病気が再燃した場合は、副腎皮質ステロイドの増量やアザチオプリンの併用を考慮します。 |
発症はとてもゆっくりであり、自覚症状も軽い場合が多いため、通常ご自分で発症に気がつくことはなく、健康診断などで偶然に発見されることがしばしばあります。しかし、治療を行わないとその進行は早く、肝硬変から肝不全に至ることも稀ではありません。適切な治療を施された患者さんのほとんどでは、肝臓の 炎症 が速やかに改善し、進行もみられなくなります。日本での調査では、適切な治療を受け、肝機能検査値が安定している自己免疫性肝炎患者さんの長期 予後 は良好で、死亡率は一般人口の死亡率と差のないことが示されています。ただ、頻回に肝機能検査値が悪化する患者さんの中には予後不良な方も存在し、肝不全や肝細胞癌を発症する場合があります。 |
自己免疫性肝炎(AIH)の予防策は特定されていませんが、以下の点に注意することでリスクを軽減できるかもしれません:
AIHの発症を予防するためには、定期的な健康診断を受け、早期に症状を発見することが重要です |
自己免疫性肝炎の治療には副腎皮質ステロイドが使用されますが、副作用として食欲 亢進 や肥満、糖尿病、脂質異常症が出現することがあります。したがって、食事の量に気をつけ、高カロリー食を避け、体重が増えないようにすることが大切です。比較的多量(15~20mg/日以上)のプレドニゾロンを内服している場合には、何らかの病原体に感染するリスクを避けるため、人の多いところへ出かける時にはマスクを着用したり、粉塵の多い場所を避けたりすることが必要なこともあります。一方、維持量(5~10mg/日)のプレドニゾロンの内服であれば感染を含め日常生活で特別な注意は不要ですし、仕事・旅行なども制限はありません。 予防接種については、不活化ワクチン(インフルエンザ、肺炎球菌、B型肝炎など)やトキソイドワクチン(ジフテリア、破傷風など)、mRNAワクチン(新型コロナウイルス感染症)は接種可能です。副腎皮質ステロイドや免疫抑制薬での治療中には予防効果が少ないことがありますが、その反面ワクチンを接種せずインフルエンザなどに感染してしまった場合、免疫抑制薬の影響で重症化してしまう危険もありますので、ワクチンを接種されることをお勧めします。一方、生ワクチン(麻疹、風疹、おたふくなど)は、副腎皮質ステロイドや免疫抑制薬を服用している場合は、原則として接種できません。 自己免疫性肝炎は、妊娠中は病気の落ち着くことが多いですが、出産後に病気が悪化し肝機能検査値が上昇する場合がありますので、主治医の先生および産科の先生とよく相談してください。5~10mg/日程度の副腎皮質ステロイドの服用は妊娠・出産には影響はないと考えられています。アザチオプリンについては、以前は妊娠中には服用してはいけない薬と位置づけられていましたが、比較的安全であることが確認され、2018年7月から治療上必要な場合には妊婦の方が服用することもできるようになりました。 |
MEMO:治療反応性の定義 AASLDガイドライン1)では治療反応性に関して以下のように定義している 生化学的寛解(Biochemical remission):血清ALT、ASTおよびIgG値*の正常化 組織学的寛解(Histological remission):治療後の肝組織における炎症の消失 不完全反応(Incomplete response):生化学的寛解に至らない検査所見の改善 治療不成功(Treatment failure):治療中の検査および組織所見の増悪 治療不耐(Treatment intolerance):薬剤副作用による治療の継続不可 再燃(Relapse):生化学的寛解後の疾患活動性の悪化 *肝硬変の場合、IgGは正常値とならなくてもよい |
- 豆腐: 豆腐は良質なたんぱく質を含み、肝細胞再生に必要です。
- 納豆: 高栄養価で、ビタミンB2やレシチンが含まれています。
- ナッツ: 特にアーモンドはビタミンEが豊富で、肝臓の活性酸素の除去に効果的です。
- グリーンピース: ビタミンB1を多く含み、肝臓の働きを助けます。
- キャベツ: ビタミンCやカルシウムが豊富で、疲れた肝臓をサポートします。
- にんにく: ビタミンB1を含み、肝臓の働きを助けます。
- 梅干し: クエン酸などの有機酸が肝臓の解毒作用を助けます。
- もやし: 高栄養価で、ビタミンC・Eを含む食品です。
- カレー: ターメリックに含まれる「クルクミン」は肝機能を強化します。
- 味噌汁: 味噌にはビタミン・ミネラルが豊富で、肝細胞再生に効果的です。
2024年5月21日 | カテゴリー:免疫疾患 |