天疱瘡には、主に“尋常性天疱瘡”と“落葉状天疱瘡”があり、原因となる自己抗体や症状などが異なります。天疱瘡の患者の半数以上は尋常性天疱瘡とされています。次いで落葉状天疱瘡が多く、ごくわずかにまれな病型の天疱瘡がみられます。まれな病型としては、口内を中心に粘膜の皮むけや潰瘍を生じさせる腫瘍随伴性天疱瘡などがあります。
天疱瘡と類天疱瘡はともに水疱、びらんができる自己免疫性疾患ですが、異なる病気です。類天疱瘡は、皮膚の中で、表皮と真皮の間にある基底膜の蛋白に対するIgG自己抗体が原因で起こります。高齢の方に発症する傾向があります。基本的な治療法は同じですが、薬剤の量など症例により異なりますので、正しく診断を受けることが大切です。天疱瘡は特定疾患に認定されていますが、類天疱瘡は認定されていません。
天疱瘡(指定難病35)
てんぽうそう
1. 「天疱瘡」とはどのような病気ですか |
天疱瘡は、自分の上皮細胞を接着させる分子に対する抗体により、皮膚や粘膜に水疱(みずぶくれ)やびらんを生じる自己免疫性水疱症です。 |
2. この病気の患者さんはどのくらいいるのですか |
厚生労働省の衛生行政報告例の統計によれば、天疱瘡で特定医療費(指定難病)受給者証を交付されている患者さんは、日本全国で3,176人(令和4年度)となっています。以前に比べて減少したのは、2015年に施行された難病法の医療費助成の要件に重症度分類が導入されたためと考えられます。世界での報告を見ると、年間発生率が100万人あたり1人から100人までと、人種および地域による差は大きいようです。南米やアフリカの一部には、落葉状天疱瘡を風土病として持つ地域があることも知られています。 |
3. この病気はどのような人に多いのですか |
発病年齢は40〜60歳代に多く、また性別では女性にやや多い傾向があります。 |
4. この病気の原因はわかっているのですか |
表皮または粘膜上皮の細胞どうしを接着させるデスモグレインというタンパクに対する自己抗体(自分自身を攻撃してしまうIgG抗体のこと)が病気を起こすことがわかっています。このような自己抗体が作られる詳しい原因は、まだわかっていません。 |
5. この病気は遺伝するのですか |
遺伝することは、通常ありません。 |
6. この病気ではどのような症状がおきますか |
大部分の症例は、尋常性天疱瘡と落葉状天疱瘡に分類されます。尋常性天疱瘡では、口腔を中心とした粘膜に水疱とびらんが生じます。痛みを伴い、病変が広範囲になると食事がとれなくなることがあります。粘膜優位型では粘膜症状が主体となりますが、粘膜皮膚型では全身に水疱・びらんが広がって、皮膚の表面から大量の水分が失われたり、感染を合併する場合があります。落葉状天疱瘡では、頭、顔面、胸、背中などに落屑(皮膚がフケ状に剥がれたもの)を伴う赤い皮疹(紅斑)や浅いびらんが生じます。重症例では全身の皮膚に拡大することもありますが、粘膜症状は見られません。 |
7. この病気にはどのような治療法がありますか |
病気の原因となる自己抗体の産生と働きを抑える免疫抑制療法を行います。現状では、副腎皮質ステロイドの内服が中心的な役割を果たしています。ステロイドの総投与量を減らして副作用の頻度を下げるために、免疫抑制薬を併用することもあります。病気の勢いを抑えきれない場合には、 血漿交換療法 、 免疫グロブリン 大量療法、ステロイドパルス療法などを併用することもあります。なお2021年12月、難治性の天疱瘡に対して、抗体産生に関わるB細胞を標的とした抗CD20抗体療法が保険診療で行えるようになりました。 |
8. この病気はどういう経過をたどるのですか |
皮膚科専門医により、早期に正しい診断を受けることが大切です。通常は、治療初期は入院してステロイド投与を開始し、水疱の新生がなくなり病気の勢いが落ち着いてきたら、ステロイドの量を徐々に減らしていきます。一度治療を開始すると、長期にわたって経過を観察する必要があり、将来的にステロイドの内服量をプレドニゾロン換算で10mg/日以下にすることを目標にします。定期的に通院して適切な治療を受けることにより、多くの症例で通常の生活を送れるまでに回復します。 |
9. この病気は日常生活でどのような注意が必要ですか |
水疱・びらんが体にできている時期は、やわらかい素材でできた着脱しやすい衣服を着用するようにします。粘膜症状が強いときには、固い食べ物を避けて下さい。歯磨きの方法など口腔内のケアも重要で、必要に応じて歯科の先生と相談するのもよいでしょう。ステロイドを内服中の患者さんは、指示された量を忘れないように内服して下さい。急に内服を中止するとショック状態になったり、水疱が再発する危険性があるので、自己判断で内服を中止したり変更したりしてはいけません。ステロイドの副作用として、感染症を起こしやすい、糖尿病、肥満、骨粗鬆症、胃潰瘍、高血圧などに注意が必要です。熱が出たり、体調不良がある場合は早めに受診するようにしましょう。症状が落ち着いてきたら、食べ過ぎに注意するとともに、散歩などの適度な運動を心がけましょう。 |
10. 次の病名はこの病気の別名又はこの病気に含まれる、あるいは深く関連する病名です。 ただし、これらの病気(病名)であっても医療費助成の対象とならないこともありますので、主治医に相談してください。 |
以下の病名の疾患は指定難病の天疱瘡とは異なるので、詳細については担当医とご相談ください。 眼天疱瘡: 眼瞼および眼球結膜のみに症状が出現することから、この疾患名が使用される場合があります。そのような症例では、他の部位の粘膜・皮膚症状や検査結果などを統合して正確な病態の把握と診断が必要となります。 IgA天疱瘡: 通常の天疱瘡はIgG型の自己抗体によって生じる疾患ですが、IgA天疱瘡はIgA型自己抗体によって粘膜・皮膚症状が誘導されるため、病態が異なります。 |
.治療法
早期診断と初期治療の重要性を認識すべきである。治療導入期と治療維持期に分けて方針を立てるが、基本的には自己抗体産生の抑制を目的としたステロイド内服が主体となる。治療の目標は寛解の維持で、その定義は「少量のステロイド内服(プレドニゾロン0.2mg/kg/日または10mg/日以下)と最小限の補助療法(多くは免疫抑制剤)の併用のみで天疱瘡の症状が出ない状態」である。
治療導入期(病初期)には、集中的かつ十分な治療により、病勢を制御できることを目標とする。具体的には、水疱新生がほぼ見られなくなり、既存病変の大半が上皮化し、ステロイドの減量を開始できる状態をめざす。ステロイド減量中に再発しないように、十分な初期治療を行うことが重要である。中等症以上では、プレドニゾロン1mg/kg/日が標準的な初期投与量である。ステロイドの早期減量効果を期待して、治療開始時より免疫抑制剤を併用することもある。初期治療が不十分と判断された場合には、血漿交換療法、ステロイドパルス療法、免疫グロブリン大量療法(IVIG)などの併用を検討すべきである。
治療維持期は、病勢が制御された後に、慎重にステロイドを減量しながら経過を観察する時期である。寛解(プレドニゾロン0.2mg/kg/日または10mg/日)をめざしてステロイドを減量する。
治療による副作用として、ステロイドによる感染症、糖尿病、肥満、骨粗鬆症、消化管潰瘍、精神症状など、免疫抑制剤による肝腎機能障害、骨髄抑制、感染症などに注意が必要であり、いずれも治療開始前および開始後の定期的な評価が重要となる。
5.予後
ステロイド療法の導入により、その予後は著しく向上した。適切な治療により、多くの症例で通常の生活を送れるまでに回復する。しかし10〜20%の症例は難治で、既存の治療法を駆使しても寛解に導くことが困難である。また、治療の副作用による合併症が問題となる症例も多い。
○ 要件の判定に必要な事項
1.患者数
約6000人
2.発病の機構
原因となる自己抗体の産生機序は不明である。
3.効果的な治療方法
ガイドラインで推奨される治療法は、多くの症例で効果的であるが、根治的治療法は未確立である。
4.長期の療養
必要(多くの症例で、ステロイド内服は数年以上となる。)
5.診断基準
あり
6.重症度分類
Pemphigus Disease Area Index (PDAI)を用いて、中等症以上を対象とする。
2025年1月14日
|
カテゴリー:膠原病, 免疫疾患 |