好酸球性多発血管炎性肉芽腫症について
好酸球性多発血管炎性肉芽腫症
○ 概要
1.概要
好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(eosinophilic granulomatosis with polyangiitis:EGPA)は、従来アレルギ
ー性肉芽腫性血管炎(allergic granulomatous angiitis:AGA)あるいはチャーグ・ストラウス症候群(Churg–
Strauss syndrome:CSS)と呼ばれてきた血管炎症候群で、2012 年の国際会議で名称変更がなされた。日
本語名も、これに呼応して検討され、表記のように定められた。
臨床的特徴は、先行症状として気管支喘息や鼻副鼻腔炎がみられ、末梢血好酸球増多を伴って血管炎
を生じ、末梢神経炎、紫斑、消化管潰瘍、脳梗塞・脳出血・心筋梗塞・心外膜炎などの臨床症状を呈する疾
患である。30〜60 歳に好発し、男:女=4:6でやや女性に多い。
2008 年の全国調査では、我が国における年間新規患者数は約 100 例で、年間の医療施設受診者は、
約 1,800 例と推定された。しかし近年の指定難病受給者証所持者数でみると患者数はこれよりも多いと推
察される。
血中の好酸球増加以外に、好酸球カチオン性蛋白(eosinophil cationic protein)の上昇、IgE 高値なども
認められる。抗好中球細胞質抗体(antineutrophil cytoplasmic antibody:ANCA)のサブタイプであるミエロペ
ルオキシダーゼに対する抗体(MPO-ANCA)が約 50%の症例で血清中に検出される。
EGPA に特徴的な病理組織学的所見は、著明な好酸球浸潤を伴う壊死性肉芽腫性炎と壊死性血管炎で
ある。真皮小血管を中心に核塵を伴い、血管周囲の好中球と著明な好酸球浸潤を認める細小血管の肉芽
腫性血管炎あるいはフィブリノイド変性を伴う壊死性血管炎や白血球破砕性血管炎(leukocytoclastic
vasculitis)が認められ、ときに、血管外に肉芽腫形成が観察される。
診断は後述の診断基準によってなされ、(1)先行する気管支喘息あるいはアレルギー性鼻炎、(2)血中の
好酸球の増加、(3)前項にある血管炎症状を認めることによる。さらに病理組織所見が存在すると確実にな
る。参考所見として、血沈亢進、血小板増加、IgE 高値、血清 MPO-ANCA(p-ANCA)陽性などが重要であ
る。
2.原因
気管支喘息、鼻副鼻腔炎が先行し、著明な好酸球増多症を呈することから、何らかのアレルギー性機序
により発症すると考えられる。
3.症状
主要臨床症状は、先行する気管支喘息あるいは鼻副鼻腔炎と、血管炎によるものである。発熱、体重減
少、末梢神経炎(多発性単神経炎)、筋痛・関節痛、紫斑、消化管出血、肺の画像所見上の網状陰影や小
結節状陰影、心筋梗塞や心外膜炎、脳梗塞・脳出血などである。多発性単神経炎は、急性症状が改善して
からも、知覚や運動障害が残存することが多い。
4.治療法
初回および再燃例の寛解導入療法として、軽・中等度症例は、原則プレドニゾロン単独で治療する。プレ
ドニゾロン単独での治療が効果不十分な場合、免疫抑制薬(静注シクロホスファミドパルス療法など)の併
用を行う。これらの既存治療に抵抗性の場合、メポリズマブ(抗 IL-5 抗体)の併用を推奨する。重症例では、
ステロイドパルス療法あるいは、免疫抑制薬(静注シクロホスファミドパルス療法など)を併用する。
寛解維持療法においては、免疫抑制薬を併用する場合はメトトレキサート(2021 年現在保険適用外)や
アザチプリンなどの併用を検討する。メポリズマブで寛解導入した場合、メポリズマブ継続で寛解維持しても
良い。
治療抵抗性の末梢神経障害に対してガンマグロブリン大量静注療法が用いられる。
注1:治療内容を検討する際には、最新の診療ガイドライン等を参考にすること。
5.予後
上記の治療により、約 90%の症例は6か月以内に寛解に至るが、継続加療を要する。残りの約 10%は
治療抵抗性あり、完全寛解は難しく、軽快と再燃を繰り返す。この内の一部は重篤症例で、生命予後にも
関わる重篤な合併症を併発するか、重大な後遺症を残すことがある。寛解例でも、多発性単神経炎による
末梢神経症状が残存する場合がある。また、長期の副腎皮質ステロイド治療による合併症には注意を要す
る。
○ 要件の判定に必要な事項
1.患者数(令和元年度医療受給者証保持者数)
4,207 人
2.発病の機構
不明(アレルギー機序が示唆される。)
3.効果的な治療方法
未確立
4.長期の療養
必要(寛解、再燃を繰り返し慢性の経過をとる。)
5.診断基準
あり(日本循環器学会、日本リウマチ学会を含む 11 学会関与の診断基準)
6.重症度分類
好酸球性多発血管炎性肉芽腫症の重症度分類を用いて、1)又は 2)の該当例を対象とする。
○ 情報提供元
難治性疾患等政策研究事業「難治性血管炎の医療水準・患者 QOL 向上に資する研究班」
研究代表者 東京女子医科大学医学部内科学講座膠原病リウマチ内科学分野 針谷 正祥
<診断基準>
Definite、Probable を対象とする。
1.主要臨床所見
(1)気管支喘息あるいはアレルギー性鼻炎
(2)好酸球増加(末梢血白血球の 10%以上、又は 1500/μ L 以上)
(3)血管炎による症状:発熱(38℃以上、2週間以上)、体重減少(6か月以内に6kg 以上)、多発性単神経
炎、消化管出血、多関節痛(炎)、筋肉痛(筋力低下)、紫斑のいずれか1つ以上
2.臨床経過の特徴
主要臨床所見(1)、(2)が先行し、(3)が発症する。
3.主要組織所見
(1)周囲組織に著明な好酸球浸潤を伴う細小血管の肉芽腫性又はフィブリノイド壊死性血管炎の存在
(2)血管外肉芽腫の存在
4.診断のカテゴリー
(1)Definite
(a) 1.主要臨床所見3項目を満たし、かつ3.主要組織所見の1項目を満たす場合
(b) 1.主要臨床所見3項目を満たし、かつ2.臨床経過の特徴を示した場合
(2)Probable
(a) 1.主要臨床所見1項目を満たし、かつ3.主要組織所見の1項目を満たす場合
(b) 1.主要臨床所見を3項目満たすが、2.臨床経過の特徴を示さない場合
5.参考となる所見
(1)白血球増加(≧1万/µL)
(2)血小板増加(≧40 万/µL)
(3)血清 IgE 増加(≧600 U/mL)
(4)MPO-ANCA 陽性
(5)リウマトイド因子陽性
(6)(画像所見上の)肺浸潤陰影
<重症度分類>
1)又は2)を認める場合を重症とする。
1)好酸球性多発血管炎性肉芽腫症による以下のいずれかの臓器障害を有する。
臓器 障害の内容
腎臓 ①又は②を満たす場合
①CKD重症度分類ヒートマップの赤色に該当*1
②いずれの腎機能であっても尿蛋白 0.5g/日以上又は 0.5g/gCr 以上
肺 特発性間質性肺炎の重症度分類で III 度以上に該当*2 又は肺胞出血
心臓 NYHA2 度以上の心不全徴候*3
眼 良好な方の眼の矯正視力が 0.3 未満
耳 両耳の聴力レベルが 70 デシベル以上、又は一側耳の聴力が 90 デシベ
ル以上かつ他側耳の聴力レベルが 50 デシベル以上の聴力障害
耳 平衡機能の著しい障害、又は極めて著しい障害*4
腸管 腸管梗塞、消化管出血
皮膚・軟部組織 四肢の梗塞・潰瘍・壊疽、又はそれらによる四肢の欠損・切断(部位は問
わない)
神経 脳血管障害により、modified Rankin Scale で3以上*5
末梢神経障害により、徒手筋力テストで筋力3以下*6
末梢神経障害による2肢以上の知覚異常
肺(喘息) 重症持続型以上の気管支喘息*7
2)血管炎の治療に伴う以下のいずれかの合併症を有し、かつ入院治療を必要とする
・感染症
・圧迫骨折
・骨壊死
・消化性潰瘍
・糖尿病
・白内障
・緑内障
・精神症状
*1 CKD 重症度分類ヒートマップ
蛋白尿区分 A1 A2 A3
尿蛋白定量
(g/日)
尿蛋白/Cr 比
(g/gCr)
正常 軽度蛋白尿 高度蛋白尿
0.15 未満 0.15~0.49 0.50 以上
GFR 区分
(mL/分
/1.73 ㎡)
G1 正常又は高値 ≧90 緑 黄 オレンジ
G2
正常又は軽度
低下
60~89 緑 黄 オレンジ
G3a
軽度~中等度
低下
45~59 黄 オレンジ 赤
G3b
中等度~高度
低下
30~44 オレンジ 赤 赤
G4 高度低下 15~29 赤 赤 赤
G5
末期腎不全
(ESKD)
<15 赤 赤 赤
*2 特発性間質性肺炎の重症度分類
重症度分類 安静時動脈血酸素分圧 6分間歩行時 最低SpO2
Ⅰ 80Torr 以上 90 %未満の場合はⅢにする
Ⅱ 70Torr 以上 80Torr 未満 90 %未満の場合はⅢにする
Ⅲ 60Torr 以上 70Torr 未満
90 %未満の場合はⅣにする
(危険な場合は測定不要)
Ⅳ 60Torr 未満 測定不要
※上記の重症度分類でⅢ度以上を重症とする。安静時動脈血酸素分圧でⅢ度以上の条件を満たせば6分間歩
行は実施しなくても良い。
*3 NYHA 心機能分類
クラス 自覚症状
I 身体活動を制限する必要はない心疾患患者。通常の身体活動で、疲労、動悸、息切れ、
狭心症状が起こらない。
II 身体活動を軽度ないし中等度に制限する必要のある心疾患患者。通常の身体活動で、疲
労、動悸、息切れ、狭心症状が起こる。
III 身体活動を高度に制限する必要のある心疾患患者。安静時には何の愁訴もないが、普通
以下の身体活動でも疲労、動悸、息切れ、狭心症状が起こる。
IV 身体活動の大部分を制限せざるを得ない心疾患患者。安静時にしていても心不全症状や
狭心症状が起こり、少しでも身体活動を行うと症状が増悪する。
NYHA: New York Heart Association
上記分類で II 度以上を重症とする。
NYHA 分類については、以下の指標を参考に判断することとする。
NYHA 分類 身体活動能力
(Specific Activity Scale:SAS)
最大酸素摂取量
(peakVO2)
I 6METs 以上 基準値の 80%以上
II 3.5~5.9METs 基準値の 60~80%
III 2~3.4METs 基準値の 40~60%
IV 1~1.9METs 以下 施行不能あるいは
基準値の 40%未満
※NYHA 分類に厳密に対応する SAS はないが、「室内歩行2METs、通常歩行 3.5METs、ラジオ体操・ストレッチ体操4
METs、速歩5~6METs、階段6~7METs」をおおよその目安として分類した。
*4 身体障害認定の平衡機能障害
ア 「平衡機能の極めて著しい障害」(3級)とは、四肢体幹に器質的異常がなく、他覚的に平衡機能障害を認め、
閉眼にて起立不能、又は開眼で直線を歩行中 10m以内に転倒若しくは著しくよろめいて歩行を中断せざる
を得ないものをいう。
イ 「平衡機能の著しい障害」(5級)とは、閉眼で直線を歩行中 10m以内に転倒又は著しくよろめいて歩行を中
断せざるを得ないものをいう。
ウ 平衡機能障害の具体的な例は次のとおりである。
a 末梢迷路性平衡失調
b 後迷路性及び小脳性平衡失調
c 外傷又は薬物による平衡失調
d 中枢性平衡失調
上記分類で、「平衡機能の著しい障害」、「平衡機能の極めて著しい障害」相当の障害を重症とする。
*5 modified Rankin Scale
日本版modified Rankin Scale(mRS)判定基準書
modified Rankin Scale 参考にすべき点
0 全く症候がない 自覚症状及び他覚徴候が共にない状態である
1 症候はあっても明らかな障害はない:
日常の勤めや活動は行える
自覚症状及び他覚徴候はあるが、発症以前から行
っていた仕事や活動に制限はない状態である
2 軽度の障害:
発症以前の活動が全て行えるわけではない
が、自分の身の回りのことは介助なしに行える
発症以前から行っていた仕事や活動に制限はある
が、日常生活は自立している状態である
3 中等度の障害:
何らかの介助を必要とするが、歩行は介助な
しに行える
買い物や公共交通機関を利用した外出などには介
助を必要とするが、通常歩行、食事、身だしなみの
維持、トイレなどには介助を必要としない状態である
4 中等度から重度の障害:
歩行や身体的要求には介助が必要である。
通常歩行、食事、身だしなみの維持、トイレなどには
介助を必要とするが、持続的な介護は必要としない
状態である
5 重度の障害:
寝たきり、失禁状態、常に介護と見守りを必要
とする
常に誰かの介助を必要とする状態である
6 死亡
日本脳卒中学会版
上記スケールで3以上を重症とする。
*6 徒手筋力テスト
0 筋肉の収縮が観察できない
1 筋肉の収縮は観察できるが関節運動ができない
2 運動可能であるが重力に抗した動きはできない
3 重力に抗した運動が可能だが極めて弱い
4 3と5の中間。重力に抗した運動が可能で中等度の筋力低下
5 正常筋力
注:一般に 5 段階評価と記載されるが、実際には MMT 0 (筋収縮なし)が加わるため 6 段階評価となる。
MMT 4 の範疇に入るが、やや筋力が強めと判断されるものは 4+と表現する。
上記スケールで 3 以下を重症とする。
*7 喘息予防・管理ガイドラインによる気管支喘息の重症度分類
現在の治療ステップ
現在の治療における
患者の症状
治療ステップ1 治療ステップ2 治療ステップ3 治療ステップ4
コントロールされた状態*1
・症状を認めない
・夜間症状を認めない 軽症間欠型 軽症持続型 中等症持続型 重症持続型
軽症間欠型相当*2
・症状が週 1 回未満である
・症状は軽度で短い
・夜間症状は月に2回未満である
軽症間欠型 軽症持続型 中等症持続型 重症持続型
軽症持続型相当*3
・症状が週 1 回以上、しかし毎日ではない
・症状が月 1 回以上で日常生活や睡眠が妨
げられる
・夜間症状が月2回以上ある
軽症持続型 中等症持続型 重症持続型 重症持続型
中等症持続型相当*3
・症状が毎日ある
・短時間作用性吸入 β2 刺激薬がほとんど毎
日必要である
・週 1 回以上、日常生活や睡眠が妨げられる
・夜間症状が週1回以上ある
中等症持続型 重症持続型 重症持続型 最重症持続型
重症持続型相当*3
・治療下でもしばしば増悪する
・症状が毎日ある
・日常生活が制限される
・夜間症状がしばしばある
重症持続型 重症持続型 重症持続型 最重症持続型
*1:コントロールされた状態が 3 ~ 6 ヵ月以上維持されていれば、治療のステップダウンを考慮する。
*2:各治療ステップにおける治療内容を強化する。
*3:治療のアドヒアランスを確認し、必要に応じ是正して治療をステップアップする。
上記分類で重症持続型以上を重症とする。
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いず
れの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確
認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であ
って、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続する
ことが必要なものについては、医療費助成の対象とする
2024年10月31日 | カテゴリー:関節リウマチ リウマチ外来, 膠原病, 免疫疾患 |