皮膚筋炎について
長らく皮疹のある皮膚筋炎(dermatomyositis)と皮疹のない多発筋炎(polymyositis)に分類されていた。膠原病内科や皮膚科領域では多発(poly)と多発性(multi)の区別がなされていないため多発筋炎を多発性筋炎と記載されていることもある。
皮膚筋炎(ひふきんえん、Dermatomyositis; DM)は、自己免疫疾患の一種である。慢性疾患であり、膠原病の1つとして分類されている。横紋筋が冒される特発性炎症性筋疾患の一つであり、他には多発筋炎(PM)、封入体筋炎(IBM)がある。多発筋炎とは皮膚症状の有無によって区別される。他の膠原病においてもしばしば本症と同様の筋炎の臨床および病理所見が伴うことがある。
皮膚筋炎や多発性筋炎を含む特発性炎症性ミオパチーはOlsenとWartmannによって以下のように分類されている。
病型 | 名称 | 臨床・病理学的所見 | 関連自己抗体 |
---|---|---|---|
I型 | 多発性筋炎 | 筋線維の壊死、CD8陽性T細胞・マクロファージの浸潤 | 抗Jo-1抗体など |
II型 | 皮膚筋炎 | ヘリオトロープ疹などの典型的な皮膚症状を伴う、筋線維束周囲の萎縮、CD4陽性T細胞・B細胞の浸潤 | 抗Mi-2抗体など |
III型 | 筋症状のない皮膚筋炎(amyopathic DM) | 典型的な皮膚症状のみで筋症状を伴わない。急性間質性肺炎を合併し、予後不良 | 抗MDA5抗体 |
IV型 | 小児の皮膚筋炎 | 血管炎・皮下石灰化を合併 | 抗Mi-2抗体など |
V型 | 悪性腫瘍に合併する筋炎 | 治療反応性不良 | 抗TIF1γ抗体 |
VI型 | 他の膠原病に合併する筋炎 | SLE、強皮症に合併 | 抗U1/U2RNP抗体、他の膠原病の自己抗体 |
VII型 | 封入体筋炎 | 進行性、治療抵抗性で高齢者に好発。筋細胞内の空胞、線維状封入体が存在 | 自己抗体陰性
|
PMの筋病理による所見では筋線維は塩基性に染まり、中心核、多核化、筋径の大小不同、間質の脂肪化、線維化がみられ血管病変の近くの筋では凝固壊死が認められる。炎症細胞浸潤は皆無に近いものから高度のものまで様々で同一例でも時期、部位、筋束の違いによって様々である。
。血管周囲にと横紋筋周囲にリンパ球主体の細胞浸潤、特にCD8T細胞の浸潤があり、CD8T細胞はマクロファージに伴って筋線維に侵入する。CD8T細胞近傍にはCD4T細胞があり浸潤細胞は主に細胞障害性T細胞(CTL)でパーフォリンとグランザイムにより標的筋細胞を破壊する。CTLはHLAに向けられていると考えられている。
封入体筋炎でも封入体が確認できない場合は同様の所見となることがある。DMの病理像は筋束に沿った筋萎縮(筋線維束周辺萎縮)が特徴的とされPMとは病因異なるという仮説も存在する。DMでは血管周囲の浸潤細胞はCD4T細胞とB細胞が主体である。筋膜に補体の細胞膜障害性複合体(MAC)が沈着しており微小血管炎(ミクロアンギオパチー)の機序など液性免疫が関係すると考えられている。このように多発性筋炎と皮膚筋炎の病態が異なるという仮説があるいっぽうで、ANCA関連血管炎による筋炎では筋線維束周辺萎縮が認められないこと、CD4T細胞によるBリンパ球の活性化はろ胞中心で起るという免疫学の知見から病理像で両者を区別することは不可能であり、同一スペクトラムに位置すると考えるべきであるという意見も存在する。
皮膚症状
ヘリオトロープ疹('heliotrope eyelids' or 'heliotrope rash')とゴットロン徴候(Gottron's papule)と呼ばれる典型的な紅斑が見られる。ヘリオトロープ疹は上眼瞼(まぶた)に見られる浮腫性紅斑をいう。ヘリオトロープとは、紫色をした西洋のハーブの名で、色が似ていることからとった。
ゴットロン徴候は手指関節背側面(手の甲側)の角質増殖、落屑や皮膚萎縮を伴う紫紅色の角化性紅斑を指す。
母指の尺側面および第2~5指の撓側面から時に掌側に達する裂溝を伴う角質化は「機械工の手」(mechanic's hand)と呼ばれる。この兆候は間質性肺炎合併と相関する。
手足の伸側には、多形皮膚萎縮症 poikilodermaといって、色素沈着、脱失、萎縮が混在した局面を呈することがある。 爪郭の血管拡張・点状出血もみられることがある。爪周囲紅斑は皮膚筋炎で高率にみられ[9]、爪周囲出血は皮膚筋炎の疾患活動性との相関が報告されている。
体幹の皮膚症状としては、前胸部紅斑(Vネック徴候)、頸部から肩・上腕にかけての紅斑(ショール徴候)、掻破による線状皮膚炎(linear streaks)、むち打ち様皮膚炎(flagellate erythema)などを認めることがある むち打ち様皮膚炎は皮膚筋炎に特有の症状ではなく、シイタケ皮膚炎、ブレオマイシン・ペプレオマイシンによる薬疹、成人発症Still病、サイトメガロウイルス感染症でもみられる。
筋症状
筋力の低下が見られる。体幹に近い骨格筋が対称的に冒される。
通常、朝起きたとき体を起こしづらいというのが最初の症状である。このときは、これが病気であるということを認識することは少なく、いつもより疲れやすいくらいに感じるものである。しだいに筋力低下は進行し、重いものを持ち上げられなくなったり、普通に軽いものも持ち上げられなくなり、歩行することも困難となって、ついには起き上がることもできない寝たきりの状態となる。
全身症状
全身倦怠感が見られる。初期段階においては発熱の可能性がある。
その他の症状
- 関節炎
- 関節リウマチに似た部位に関節痛を生じるが、明らかな滑膜炎ではなく他覚所見はあまりない。
- 肺炎
- 40~50%に間質性肺炎が生じるほか、のどの筋力が低下することにより誤嚥性肺炎を発症しやすい。PM/DMに合併する間質性肺炎は慢性型と急性型に分かれる。慢性型間質性肺炎の合併例は抗Jo-1抗体などの抗ARS抗体が高頻度に検出される。慢性型間質性肺炎は組織学的にはNSIPを呈し、PSL反応性も良好なことが多い。PMでは抗Jo-1抗体陽性例が多く慢性で予後がよい。亜急性の経過を辿る例も器質化肺(OP)やNSIPが大部分でステロイドによって改善が期待できる。DMの間質性肺炎の20%は急速進行性で治療抵抗性で予後不良である。抗ARS抗体が陰性で筋症状やCKの上昇も軽度であるがヘリオトロープ疹やゴットロン徴候などの典型的皮疹がある筋症状を伴わない皮膚筋炎(Amyopathic Dermatomyositis)では急速進行性の間質性肺炎を合併しやすい。このような場合は組織学的にDADを呈し、副腎ステロイド薬には抵抗性で予後が不良である。PM/DMに合併した急速進行性間質性肺炎に対してはPSLとシクロスポリンの併用療法などが有効とされている。3割の患者で筋症状よりも呼吸器症状が先行するとされている。
- 悪性腫瘍
- これは症状というより、悪性腫瘍があると腫瘍随伴症候群として皮膚筋炎を発症するのである。原因となる悪性腫瘍は、日本では胃癌が原因であることが多く、欧米では大腸癌が多い。一般に、消化管癌に合併し、最多のものはその地域で最多であるというだけの話である。悪性腫瘍の合併例では、腫瘍を治療すると筋炎の症状も改善することが知られている。
50 皮膚筋炎/多発性筋炎
○ 概要
1. 概要
自己免疫性の炎症性筋疾患で、主に体幹や四肢近位筋、頸筋、咽頭筋などの筋力低下をきたす。典型
的な皮疹を伴うものは皮膚筋炎と呼ぶ。疾患の本態は筋組織や皮膚組織に対する自己免疫であるが、全
ての筋・皮膚組織が冒されるわけではなく、特に皮膚症状では、特徴的部位に皮疹が出やすい。検査所見
上、筋組織崩壊を反映して、筋原性酵素高値を認める他、他の膠原病と同様に高γグロプリン血症や自己
抗体を認める。2009 年の臨床調査個人票の解析結果によれば、多発性筋炎(PM:polymyositis)・皮膚筋
炎(DM:dermatomyositis)の推定患者数はほぼ同数で、男女比は1:3で、発症ピークは5~9歳と 50 歳代
にあった。
2.原因
本疾患の骨格筋には、単核球の未壊死筋線維周囲への浸潤と、筋線維の変性、壊死、再生が認められ
る。浸潤細胞は、T、B リンパ球、マクロファージなどである。かつて、多発性筋炎では浸潤細胞に CD8 陽性
T リンパ球が多く、皮膚筋炎ではCD4陽性Tリンパ球が多い上、筋血管内皮細胞に補体沈着が認められた
ことから、前者はキラーCD8 陽性 T リンパ球による筋組織傷害、後者は抗体による筋血管障害が原因であ
るとの説が唱えられた。しかし、その後の研究成果や両疾患の治療反応類似性、皮膚炎だけの無筋炎型
皮膚筋炎の存在から、症例それぞれの程度で筋炎と皮膚炎を発症する炎症性筋疾患という一つのスペクト
ラムであるとも考えられる。
3.症状
①全身症状として、発熱、全身倦怠感、易疲労感、食欲不振、体重減少など、②筋症状として、緩徐に発
症して進行する体幹、四肢近位筋群、頸筋、咽頭筋の筋力低下が多く、嚥下にかかわる筋力の低下は、誤
嚥や窒息死の原因となる。進行例では筋萎縮を伴う。③DM に特徴的な顔面皮膚症状は、ヘリオトロープ疹
と呼ばれる上眼瞼の浮腫性かつ紫紅色の紅斑である。手指の指節間関節や中手指節関節の背側には、
ゴットロン丘疹と呼ばれる紫色の丘疹ないし紅斑を生じる。
これらの三大徴候の他に、V 徴候やショール徴候と呼ばれる紫紅色斑や、手指皮膚の角化、一カ所の皮
膚病変に、多彩な皮膚病変が混在するものを多形皮膚と呼ぶ。レイノー症状も約 30%の症例に見られるが、
強皮症のように皮膚潰瘍や手指壊疽に進行することは少ない。
間質性肺炎を伴うことがあり、生命予後を左右する。特に急速進行例には、そのまま進行して呼吸不全と
なって死に至る病型がある。また、進行例では、不整脈、心不全などがみられることがある。一般人口と比
して DM では約3倍前後、PM では2倍弱悪性腫瘍を伴いやすい。
4.治療法
筋組織にリンパ球やマクロファージ浸潤を伴う自己免疫性組織障害が病態の基本であり、副腎皮質ステ
ロイド薬投与が第一選択となる。嚥下障害、急速進行性間質性肺炎のある症例では、救命のため、強力か
1
つ速やかに治療を開始する必要がある。
皮膚炎主体の症例では遮光の推奨と局所ステロイド薬治療が優先される。副腎皮質ステロイド薬が、効
果不十分、精神症状などの副作用により使えない、減量により再燃するなどの症例では、免疫抑制薬を併
用する。即効性のある治療法として、免疫グロブリン大量静注療法があるが持続性に乏しく、寛解導入には
他剤で免疫抑制を行う必要がある。
急速進行性の間質性肺炎を合併する症例では、当初から高用量副腎皮質ステロイド薬と免疫抑制薬を
併用する。また悪性腫瘍検索を十分に行い、治療することが大切である。
5.予後
急速進行性間質性肺炎や悪性腫瘍を合併する症例は予後が悪く、多発性筋炎・皮膚筋炎の初発患者の
うち約 10%は死の転機を迎える。全症例の5年生存率は、約 80%前後とされるが、治療法は進歩しており、
さらに改善していると思われる。しかし、筋炎はステロイド減量で再燃しやすく、また、筋力回復には長期必
要する場合も多く、治療後も過半数の症例に筋力低下が残るという。
○ 要件の判定に必要な事項
1.患者数(平成 24 年度医療受給者証保持者数から推計)
約 19,500 人
2.発病の機構
不明
3.効果的な治療方法
未確立(根治的療法なし)
4.長期の療養
必要(内臓病変を合併、再燃しやすい。)
5.診断基準
あり(現行の特定疾患治療研究事業の診断基準から改定)
6.重症度分類
研究班による分類基準を用い、1)~4)のいずれかに該当するものを医療費助成の対象とする。
○ 情報提供元
「自己免疫疾患に関する調査研究班」
研究代表者 筑波大学医学医療系内科(膠原病・リウマチ・アレルギー) 教授 住田孝之
2
<診断基準>
1 診断基準項目
(1) 皮膚症状
(a) ヘリオトロープ疹:両側又は片側の眼瞼部の紫紅色浮腫性紅斑
(b) ゴットロン丘疹:手指関節背面の丘疹
(c) ゴットロン徴候:手指関節背面および四肢関節背面の紅斑
(2) 上肢又は下肢の近位筋の筋力低下
(3) 筋肉の自発痛又は把握痛
(4) 血清中筋原性酵素(クレアチンキナーゼ又はアルドラーゼ)の上昇
(5) 筋炎を示す筋電図変化
(6) 骨破壊を伴わない関節炎又は関節痛
(7) 全身性炎症所見(発熱、CRP 上昇、又は赤沈亢進)
(8) 抗アミノアシル tRNA 合成酵素抗体(抗 Jo-1 抗体を含む)陽性
(9) 筋生検で筋炎の病理所見:筋線維の変性及び細胞浸潤
2 診断基準
皮膚筋炎 : (1)の皮膚症状の(a)~(c)の1項目以上を満たし、かつ経過中に(2)~(9)の項目中4項目以上を
満たすもの
なお、皮膚症状のみで皮膚病理学的所見が皮膚筋炎に合致するものは無筋症性皮膚筋炎として皮膚
筋炎に含む。
多発性筋炎 : (2)~(9)の項目中4項目以上を満たすもの
3 鑑別診断を要する疾患
感染による筋炎、薬剤誘発性ミオパチー、内分泌異常に基づくミオパチー、筋ジストロフィーその他の先天
性筋疾患、湿疹・皮膚炎群を含むその他の皮膚疾患
3
<重症度分類>
以下のいずれかに該当する症例を重症とし、医療費助成の対象とする。
1) 原疾患に由来する筋力低下がある
体幹・四肢近位筋群(頸部屈筋、三角筋、上腕二頭筋、上腕三頭筋、腸腰筋、大腿四頭筋、大腿屈筋群)
の徒手筋力テスト平均が5段階評価で 4+ (10 段階評価で9) 以下
もしくは、同筋群のいずれか一つの MMT が4(10 段階評価で8)以下
2) 原疾患に由来する CK 値もしくはアルドラーゼ値上昇がある
3) 活動性の皮疹(皮膚筋炎に特徴的な丘疹、浮腫性あるは角化性の紅斑、脂肪織炎*が複数部位に認めら
れるもの)がある *新生または増大する石灰沈着を含む
4) 活動性の間質性肺炎を合併している(その治療中を含む)
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いず
れの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確
認可能なものに限る)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態で、
直近6ヵ月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続す
ることが必要な者については、医療費助成の対象とする。
2024年8月8日 | カテゴリー:関節リウマチ リウマチ外来, 膠原病, 免疫疾患 |