若年性特発性関節炎(若年性関節リウマチ)
若年性(じゃくねんせい)=16歳未満、特発性(とくはつせい)=原因不明の意味で、16歳未満の子どもさんに発症した6週間以上続く(=慢性)関節の 炎症 を若年性特発性関節炎、英語表記でJIA(juvenile idiopathic arthritis)と呼びます。JIAは、国際リウマチ学会(ILAR)の分類基準により7つの病型に分けられています。そのうち小児期発症特有の病型は、「全身型」、「少関節炎」、「 リウマトイド因子 陰性多関節炎」、「リウマトイド因子陽性多関節炎」で、後者3つは関節型JIAとも呼ばれます。「全身型」は、1か所以上の関節炎に2週間以上続く発熱を伴い、それに皮膚の発疹、全身のリンパ節の腫れ、肝臓や脾臓の腫れ、漿膜炎のいずれかがあるものをさします。「少関節炎」は、発症6か月以内の関節炎が1~4か所にとどまるもので、関節炎が全経過を通して4か所以下の“持続型”と、発症6か月以降に5か所以上に増える“進展型”に分けられます。「リウマトイド因子陰性多関節炎」「リウマトイド因子陽性多関節炎」は、発症6か月以内の関節炎が5か所以上に見られるもので、それぞれリウマトイド因子が陰性または陽性のものです。リウマトイド因子とは、ヒトのもつ 免疫グロブリン G(IgG)に対する 自己抗体 で、リウマチ性疾患の患者さんの血液中にしばしば見られます。
全身型:関節炎(関節の腫れと痛み)を伴って、高熱が続きます。また80%以上で発疹がみられ、発熱時に発疹がでたり、色が濃くなったりします(図)。
発疹は鮮やかな紅色で、通常盛り上がりやかゆみはなく短時間で消失したり移動したりします。関節痛も発熱の出入りに伴い強弱がみられます。
発熱は1日中続くわけではなく、40℃を超える高熱が突然出現し、解熱薬を使わなくても短時間で自然に下がります。このような発熱は数週間続きますが、発熱のない時は比較的元気で、熱発する時にはよく寒気を訴えます。
また、全身のリンパ節が腫れたり、肝臓や脾臓が腫れたり、時に漿膜炎(胸膜炎、腹膜炎)による腹痛や胸痛などをともなうこともあります。
全身の炎症が長く続くと、心臓や肺を包む膜に水が貯まったり(心のう水・胸水)、血液の固まり方が悪くなったり(播種性血管内凝固)、いろいろな臓器の機能障害がでるなど( 多臓器不全 )、 重篤 な状態になる場合があります。
関節型:関節炎は、指にある小さな関節から膝・手首・肩などの大きな関節にも起こります。関節痛は朝につよく、こわばり感を伴います。腫れや痛みのため関節を動かさなくなったり、ぎこちない歩き方になったりします。関節痛を訴えることができない小さな子どもさんでは、午前中は機嫌が悪い、抱っこをせがむ、触られるのを嫌がるなどの様子がみられます。
1.概要
16歳未満に発症した、原因不明の6週間以上持続する慢性の関節炎である。自己免疫現象を基盤とし、進行性・破壊性の関節炎を認め、ぶどう膜炎(虹彩炎)、皮疹、肝脾腫、漿膜炎、発熱、リンパ節腫脹などさまざまな関節外症状を伴う。全身症状の強い全身型と、全身症状のない関節型がある。
2.原因
原因は不明であるが、個体側の要因(HLA等)と環境因子の双方が関与し、自己免疫現象を惹起すると考えられる。特に全身型ではIL-1・IL-18・IL-6など炎症性サイトカインの産生増加が病態の中心と考えられ、過剰形成されたIL-6/IL6 receptor(R)複合体が標的細胞表面のgp130に結合し、種々の生体反応を惹起する。関節局所では炎症細胞の浸潤と炎症性サイトカインの増加が見られ、滑膜増生や関節軟骨や骨組織の破壊を認める。また、機序は不明であるがぶどう膜炎を合併する例が約5~10%あり、抗核抗体(ANA)陽性例に認めやすいことから、眼内局所における自己免疫応答の関与が示唆されている。
3.症状
全身型では発症時に強い全身性炎症所見を伴い、数週以上にわたり高熱が持続し、紅斑性皮疹、全身のリンパ節腫脹、肝脾腫、漿膜炎(心膜炎、胸膜炎)などを認める。
関節型では関節痛、関節腫脹、関節可動域制限、朝のこわばりなど関節症状が主体であるが、時に発熱など全身症状を伴う。進行すると関節強直や関節脱臼/亜脱臼などの関節変形を伴い、関節機能障害を残す。長期の炎症は栄養障害や低身長の原因となる。ぶどう膜炎は半数が無症状だが、有症者では視力低下、眼球結膜充血、羞明、霧視を訴える。関節炎の活動性とは無関係に発症し、ぶどう膜炎が先行する例もある。成人期に至った患者の半数に関節変形や成長障害(下肢長差や小顎症)が見られ、日常動作困難や変形性関節症・咬合不全など二次障害の原因となる。関節機能障害も約半数にみられ、約3%は車イス・寝たきり状態となる。ぶどう膜炎発症者では、約10年で60%に虹彩後癒着、緑内障、白内障、帯状角膜変性症などの眼合併症を発症する。また、第二次性徴遅延や卵巣成熟不全も一般発症率より高率とされる。
4.治療法
関節痛に対して非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)や少量ステロイドの短期併用が用いられる。全身型では副腎皮質ステロイドへの依存性が極めて高く、メチルプレドニゾロンパルス療法など高用量ステロイド治療や血漿交換が用いられる。関節炎治療の中心は免疫抑制薬(第一選択:メトトレキサート)による寛解導入であるが、半数は難治性で関節破壊の進行がある。ステロイド抵抗性・頻回再発型の全身型患者では、保険適用のトシリズマブ(抗IL-6受容体モノクローナル抗体)が用いられる。トシリズマブで効果不十分・不耐の患者では同じく保険適用のカナキヌマブ(抗IL-1モノクローナル抗体)を用いる事が出来る。関節型の難治例に対しては、その他の免疫抑制薬(タクロリムス、サラゾスルファピリジン、イグラチモドなど)の併用や、生物学的製剤(エタネルセプト、アダリムマブ、トシリズマブ、アバタセプトなど)の併用を行う。欧米ではヤヌスキナーゼ阻害薬であるトファシチニブが承認されている。関節破壊が進行した例では関節形成術や人工関節術が考慮される。ぶどう膜炎に対しては、ステロイド点眼を中心とした局所治療が第一選択となる。局所治療に抵抗性/再発性の例では、ステロイドの全身投与や免疫抑制薬(メトトレキサートなど)、生物学的製剤(アダリムマブ、インフリキシマブなど)が必要となる。
両型とも成人期に至った患者の半数で免疫抑制薬と生物学的製剤の併用が必要で、複数薬剤による疾患コントロールが必要である。成人患者においては他の生物学的製剤(インフリキシマブ、ゴリムマブ、セルトリツマブペゴル)の有用性も報告されている。妊娠・授乳を希望する症例では、胎児・乳汁に影響の少ない治療薬への変更を検討する。
5.予後
全身型の約10%は活動期にマクロファージ活性化症候群への移行が認められ、適切な治療がなされなければ播種性血管内凝固症候群・多臓器不全が進行して死に至る。
関節型の16%は活動性関節炎が残存し、日常生活・社会活動・就労は制限される。また慢性疼痛が残存するため、心理社会面への影響も大きい。関節破壊による関節機能障害、関節可動域低下が進行すると関節手術が必要で(罹患45年で約75%)ある。ぶどう膜炎は治療中でも半数に活動性を認め、難治例では失明の危険性を伴う。ぶどう膜炎患者の半数が10年以内に眼科手術を受けており、眼内レンズ挿入術が最多である。手術症例では、耐用年数の問題から20~30年後に人工関節・人工レンズの再置換手術が必要となる。治療を減量・中止すれば容易に再燃するため、長期的な治療および重症度に応じた生活制限を要する。死亡率は0.3~1%とされており、マクロファージ活性化症候群、アミロイドーシス、感染症によるものが報告されている。
- 全身型では、初期の全身性 炎症 をステロイドなしで抑え込むことは難しく、ステロイドによる治療が必要です。また、全身型では、発熱が続くなど病勢の強い時期が続けば、危険な合併症やより 重篤 な状態へ移行するリスクが高まります。したがって、このような危険な状態を回避するためにも、病勢を速やかに抑え込むステロイドが必要なのです。ステロイドを使わないと、かえって危険な状況に陥りかねません。
一方、この病気には、初期の激しい病勢が一旦おさまれば、その後は自然に軽快していく特徴があります。したがって、ステロイドで病勢を抑え込むことに成功すれば、その後は病勢の沈静化に応じてステロイドを減量することが可能になります。実際には約80%の患者さんが最終的にステロイドを中止できています。
以上から、病勢が強い時期の危険な合併症や移行病態を回避するため、また最終的にはほとんどがステロイド中止可能であることから、ステロイドを使った治療が、全身型の治療の中心となっています。
カナキヌマブとトシリズマブは、病勢が落ち着いてから始める治療です。
全身型の患者さんの体内では、大量のIL-1やIL-6(炎症を起こすサイトカイン)が作られており、それが患者さんの細胞や血中にあるそれぞれのアンテナ(IL-1受容体、IL-6受容体)と結合し、炎症を起こす命令(シグナル)が伝わって、発熱や関節痛などの症状や検査値の異常が出現することが分かっています。IL-6はIL-1の刺激により作られるサイトカインで、カナキヌマブはIL-1とくっついてIL-1がアンテナ(受容体)を刺激しないようにすることで、IL-6が作られるのを抑えます。しかし、IL-1の産生を抑える作用はないので、大量にIL-1がある時はカナキヌマブとくっつかないIL-1によってIL-6が産生されます。トシリズマブはIL-6のアンテナにくっついてIL-6がアンテナと結合するのを邪魔し、炎症を起こす命令を伝える経路を塞ぐことで炎症を抑えます。しかし、IL-6の産生を抑え込む作用はないので、IL-6のアンテナと結合できないIL-6が血中に増加します。したがって、病勢の強い時にカナキヌマブやトシリズマブだけで治療を始めると、病態としては非常に不安定な状況になります。
一方、このIL-6産生を抑え込む役割を果たすのがステロイドです。ですので、まずはステロイドで治療して活発なIL-6産生を抑制し、その上でIL-6の産生や命令を遮断する、カナキヌマブまたはトシリズマブを投与するという手順が決まっています(なお2023年11月現在、カナキヌマブはトシリズマブが効かないか使えない患者さんにのみ使用が認められています)。
生物学的製剤による治療を受けています。日常生活で気をつけることを教えてください。
- 抗リウマチ薬や生物学的製剤使用時は、感染症の合併や悪化に気をつけてください。うがい・手洗い・マスクなどの標準的な予防策や、季節性インフルエンザ流行前の予防接種は感染症を防ぐだけでなく、感染症をきっかけにJIAが悪化する事を防いでくれることがわかっています。ただし、これらの薬を使用中は生ワクチン(麻しん風しん混合ワクチン、水痘ワクチン、おたふくかぜワクチン、ロタワクチンなど)は打てませんので、ご注意ください。
自己注射タイプの生物学的製剤を使用中の方で、風邪を引いた場合、治るまで投与を延期する場合もあります。主治医に投与スケジュールを確認してください
なお、トシリズマブ使用中の方は以下の点にご注意ください。IL-6は、発熱や倦怠感などの症状を引き起こすサイトカインですが、トシリズマブは、IL-6の命令が伝わらないようにする薬剤ですので、風邪の症状が軽くなります。例えば風邪をこじらせて気管支炎や肺炎になっていても、微熱程度で元気に見える事があります。もし、症状がすっきりせず続く事があれば、早めに主治医にご相談ください。
生物学的製剤使用により劇的に病状がよくなることが多いのですが、そのような場合でも自己判断で治療を中断したり減量したりすることは危険ですのでやめましょう。
2024年7月31日 | カテゴリー:関節リウマチ リウマチ外来, 膠原病 |