抗ARS抗体/抗MDA5抗体/抗TIF1抗体について
)抗ARS抗体
臨床的な意義が知られている抗ARS抗体に
は,Jo-1,PL-7,PL-12,EJ,OJ,KSの6種類が
ある.これらの抗ARS抗体陽性例は類似の臨床
特徴を有することから,抗合成酵素抗体症候群
あるいは抗ARS抗体症候群と呼ばれる.共通所
見として,筋炎,ILD,多発関節炎,Raynaud現
象,機械工の手(mechanic’s hand)等があり,
これらのなかでILDの頻度が最も高い(90%以
上).ただし,これらの症状は必ずしも同時に出
現するわけでなく,ILDが筋炎に先行することを
しばしば経験する.胸部高解像度CT(computed
tomography)では下肺優位,気管支血管束から
胸膜直下のすりガラス影,網状影,牽引性気管
支拡張が混在することが多く,非特異性間質性
肺炎(nonspecific interstitial pneumonia:NSIP)
パターンに分類される.横隔膜が挙上して下葉
容量が減少する縮小肺を伴う場合もある.慢性
~亜急性の経過をとることが多く,ステロイド
や免疫抑制薬に対する反応性は良好であるが,
再燃を繰り返すことが特徴である.手,手指関
節等小関節中心の多発関節炎を30~40%で伴
う.関節リウマチと区別できない骨びらん,強
直を呈する病型と,母指関節と遠位指節間関節
の亜脱臼を主体として特有の手指関節変形を呈
する病型がある.機械工の手は手指の側面,特
に母指の尺側面と示指,中指の橈側面にみられ
る裂溝を伴う角化病変である.現在保険診療で
測定される抗ARS抗体は,Jo-1,PL-7,PL-12,
EJ,KSの5種類のリコンビナント蛋白の混合を
抗原として用いているため,抗OJ抗体を検出で
きない.
2)抗MDA5抗体
抗MDA5 抗 体 は, 臨 床 的 に 筋 炎 を 欠 くDM
(clinically amyopathic dermatomyositis:CADM)
に検出される自己抗体として同定され,本抗体
陽性例は悪性腫瘍の合併が少なく,治療抵抗性
で予後不良の急速進行性ILDを高率に伴う.抗
MDA5抗体は小児から高齢者まで幅広い年齢層
で検出され,発熱,関節炎,打ち抜き様の皮膚
潰瘍の頻度が高く,90%以上がILDを伴う.ILD
は病初期に亜急性の経過をとるものの,経過中
に半数が急速進行性となり,治療抵抗性で致死
的な経過をたどる.血清フェリチンが高値を示
す例が多く,その濃度が疾患活動性と相関する.
3)抗Mi-2抗体
古典的DMに検出される自己抗体として同定
され,その後の検討により定型的なDM皮疹を
有する成人及び小児例と関連することが示され
た.ILDや悪性腫瘍を伴うことは稀で,生命予後
は良好である.ステロイドに対する反応性は良
好であるが,再発を繰り返す例が多い.
4)抗TIF1-γ抗体
本抗体で特筆すべき点は,従来は自己抗体が
検出されないとされてきた悪性腫瘍関連筋炎
(cancer-associated myositis;CAM)に高率に検
出されることである.メタ解析では,成人例に
限定すると本抗体のCAMにおける感度が78%,
特異度が89%と報告されている10).一方,抗
TIF1-γ抗体は小児もしくは青年期に発症した古
表 3 PM/DM 関連自己抗体による臨床分類
抗 MDA5 抗体 抗 Mi-2 抗体 抗 TIF1-γ抗体 抗 ARS 抗体
典的DMにも検出される.興味深いことに,これ
ら症例では悪性腫瘍の合併はない.同抗体陽性
例では,悪性腫瘍の有無に関係なく,ヘリオト
ロープ疹やGottron徴候等DM皮疹が高度で,ILD
は稀である
2024年7月17日 | カテゴリー:関節リウマチ リウマチ外来 |