関節リウマチに合併しやすく鑑別に注意がいる膠原病
寛解率を改善させるために RA の早期診断が提唱され、
2010 年 ACR/EULAR 新分類基準が使用されているが、
その使用においては、鑑別疾患としての全身性結合組織疾患(膠原病)の除外は重要である
RA に合併しやすく鑑別が難しい膠原病として、混合性結合
組織病、全身性強皮症がある
MCTD は 1972 年に米国の Sharp らによって提唱された概念である 1)。
全身性エリテマトーデス(SLE)、全身性強皮症(SSc)および多発性筋炎(PM)の 3 つの疾患のうち 2 つ以上の臨床所見が、
同一患者に同時にあるいは経過とともに認められ、かつ血清中の抗 U1-RNP 抗体が高値陽性を特徴とする全身性疾患である。
Sharp らの提唱した MCTD では、SLE、SSc、PM はいずれもその診断には至らない。一方、合併する個々
の疾患がそれぞれの診断基準を満たす場合は重複症候群(overlap syndrome)とされている。今日では一般
に MCTD は広義の重複症候群の一病型として分類されることが多い。
MCTD 患者を長期にフォローすると SLE や PM 様症状は改善し、SSc 様症状のみ残ることから、MCTD
を独立した疾患概念とはみなさずに、SSc の一病型とする説もあり、米国ではこの説を支持する研究者が多い。
しかし、MCTD では病初期から最終観察時に至るまで手と手指の腫脹が高頻度に認められたことが SSc と異
なっており、さらに、MCTD における肺動脈性肺高血圧症(PAH)合併率は他の膠原病に比較して有意に高
い。このような成績は MCTD が他の膠原病の一病型や途中経過の病態ではなく、独立した疾患概念であると
考えられる。わが国では厚生労働省が 1992 年に MCTD を特定疾患に指定していることもあり、MCTD の診
断名は広く用いられている。
MCTD は特定疾患治療研究事業対象疾患の一つである。受給者証交付件数によると我が国の推定患者数は
10,935 人(2016 年度統計)で、近年はほぼ 10,000 人前後を推移している。女/男比は 13:1~16:1 と女
性が圧倒的に多い疾患である。30~40 歳代の発症が多いが、小児から高齢者までいずれの年代でも発症がみ
られる
全身性強皮症(systemic sclerosis:SSc)SSc は、多臓器に繊維化、血管内皮障害が生じる原因不明の疾患である 12)。
SSc では疾患特異的な自己抗体(抗トポイソメラーゼ-1/Scl-70 抗体、抗 RNA ポリメラーゼⅢ抗体、抗セントロメア抗体、抗 U1-RNP 抗
体)の出現がみられ、自己免疫異常が病態形成に影響を及ぼしていることが推察される。初発症状としてはレ
イノー症状が最も多く、その後、手指・足趾より皮膚硬化が進行する。同時に、関節炎、筋炎、間質性肺疾患、
消化管障害、心筋障害、肺動脈性肺高血圧症、腎機能障害などへの進行が知られているが、神経系の障害は極
めて稀である。これらの内臓病変の有無が生命予後や QOL に関与してくる。急激に全身の皮膚に硬化を呈す
る症例もあるが、多くの症例では緩やかに進行し、なかには、ほとんど進行しない症例も存在する。
米国での SSc 発症率は、毎年 100 万人に対して 2.7~19.1 と報告されており、我が国における SSc 推定患
者数は約 3 万人程度である。診断技術の進歩により、近年発症率が増えてきている。小児から高齢者まで幅広
い年齢層にみられるが、好発年齢は 30~50 歳で男女比は 1:10 と圧倒的に女性に多い。生命予後は、10 年
生存率が 70~80%とする報告が多い 13)。予後に関しては、強皮症の皮膚硬化による分類、自己抗体の種類に
より差がみられる
MCTD、SSc の関節症状
MCTD 、SSc の初発症状は、レイノー現象がもっとも多いが、次いで関節症状が多い。関節症状が初発症
状となり、RA と間違われたりする場合も少なくない。さらに、多関節炎症状を呈する症例では、関節炎症状
を SSc、MCTD の関節症状とするか、RA の合併(オーバーラップ症候群)とするかは議論のあるところであ
り、厳密な鑑別は困難である。
MCTD の関節症状MCTD において関節炎(関節痛)は、経過中に 70~80%と極めて高頻度に出現する。初発症状となる場合
も多いため、その臨床像の把握は重要である 38)。多発性・対称性で、末梢の小関節に好発し、朝のこわばり
を伴うことも多い。基本的には、骨びらんや破壊を伴わず、1 年以上持続した場合も X 線画像で骨破壊が見
いだされることはまれである。約 30%程度の症例で RA と鑑別困難なびらん性関節炎がみられる。そのため、
慢性経過の多関節炎である場合には、骨破壊の進行に留意が必要である。
血液検査において、RA の診断に繁用されるリウマトイド因子(RF)は、MCTD の 50~70%で陽性とな
る。一方、RA に特異度の高い抗 CCP 抗体の陽性率は、1987 年 ACR の RA 分類基準を満たす症例でも 50%程度で 39)、抗 CCP 抗体陰性であ
ることが少なくない。抗 CCP 抗体陰性の症例であっても、骨びらんの出現に注意し、経過観察が必要である。単純 X 線検査で、骨破
壊が 30%程度の症例でみられることがある。罹病期間の短い場合は、骨変化をきたしていない症例もあるので MRI 検査で早期の滑膜炎の検出を考慮する(表 6)。
関節炎の治療の原則は、NSAIDs およびステロイド薬である。単関節炎、関節炎の程度が軽い場合には、
NSAIDs の外用、疼痛の強い場合には、NSAIDs の内服を考慮する。MCTD あるいは抗 U1—RNP 抗体陽性
患者において、イブプロフェン、スリンダクによる無菌性髄膜炎の報告があり、NSAIDs を選択する際に注意
が必要である。NSAIDs で効果不十分な場合は、少量ステロイド薬の適応となる。関節炎に対して、PSL 換
算で 20 mg/日以上を要することは極めて少ない。抗 CCP 抗体陽性例、骨びらんを認める症例、PSL 15mg/
日以上が効果不十分な例では、RA の治療に準じ DMARDs を考慮する。生物学的製剤の有効性は、現時点で
明らかでない。
SSc の関節症状 SSc において関節痛は、自覚症状としてはもっとも多いものの一つであり、SSc 全体の約半数にみられる 40、
41)。関節痛は、程度はそれほど強くないが慢性的であり、手指の関節(PIP 関節、MCP 関節)、手関節、膝
関節、足関節に多くみられる。SSc でみられる関節周囲の疼痛は、主に腱病変と関節病変に起因する。
腱病変は、硬化した皮膚において深部の腱周囲の結合組織(腱鞘滑膜)にまで線維化が及び生じる。傍関節
領域では、関節拘縮の原因となる。また、腱自体に炎症をきたす場合があり、腱鞘滑膜炎をきたし、腱の長軸
方向に沿って疼痛を自覚する。関節病変には,関節拘縮と関節炎(滑膜炎)がある。関節拘縮は、関節を構成する滑膜、
関節包、靭帯などが炎症や損傷により萎縮・癒着したり、関節を取り巻く皮膚、皮下組織、腱が線維化をきたすことで、軟部結合組織が伸展性を失
い、関節可動域が制限された状態である。関節拘縮は,関節炎以外にも線維化などによっても生じるので、関節炎より頻度が高い。また、関節拘縮
も関節炎も、dcSSc、lcSSc の両方に生じるが、特に関節拘縮は dcSSc に多くみられる。
関節炎は、他のリウマチ性疾患と同様に滑膜の炎症である。関節炎の分布は、多関節 61%、少数関節 22%、
単関節17%と多関節が傷害される頻度が高い。また、100 例のSScの観察研究によると、手には関節痛が9%、
関節炎が 11%生じ、足に関しては関節痛が 23%、関節炎が 14%と足の方がやや多い 42)。
SSc で左右対称性の多関節炎が生じた場合、これを RA の合併(systemic sclerosis—rheumatoid arthritis
overlap)ととらえるか、強皮症固有の関節病変(systemic sclerosis arthropathy)ととらえるかは議論のあるところであり、実際に厳密に区別することは困難である。RA の合併に関する報告は複数ある 。SSc において、1987 年の ACR の RA 分類基準を満足する割合は、5%前後と共通している。また、SSc における抗 CCP 抗体陽性頻度は 1.5~12%である 44、45)。抗 CCP 抗体陽性だからといって必ずしもRAと診断できるわけではないが、感度は高く、RA 合併を診断するうえで参考になる。
関節病変については、画像所見も重要である。X 線所見は、①RA でもみられるような傍関節領域の骨粗鬆
症、関節裂隙の狭小化、骨びらんが DIP・PIP・MCP 関節に認められたり、②乾癬性関節炎でみられるよう
な DIP 関節の pencil—in—cap 像、③手指末節骨の骨融解、④母指 CMC 関節症と多様である 46)。びらん性関
節炎を RA と区別するのが困難であるが、RA は MCP、PIP に多いのに対し、強皮症は DIP、PIP に多い傾
向にある。関節エコーや関節 MRI は、SSc においても滑膜炎、関節液貯留、腱鞘滑膜炎の描出に優れる。
SSc による関節炎であれば NSAIDs を使用し、効果不十分の場合は、少量ステロイドや RA に準じて
DMARDs を使用することもあるが、エビデンスに乏しく、治療法は確立していない。ただし、RA の合併と
診断できる場合は DMARDs を考慮する
2024年7月14日 | カテゴリー:関節リウマチ リウマチ外来 |