異形狭心症について
異型狭心症は日本人に比較的よく見られ、血管攣縮(れんしゅく)性狭心症とも呼ばれ、冠動脈に明らかな動脈硬化は無いのに、血管が痙攣(けいれん)して血液の通り道が極端に狭くなるために胸痛発作が起こる心臓病です。
2008年「冠攣縮性狭心症の診断と治療に関するガイドラ
イン」1) が日本循環器学会により作成され,2013年に改訂
版が発表された 2).
その後,冠微小循環障害(coronarymicrovascular dysfunction: CMD),バイオマーカー,画像診断,生理機能,遺伝子などの多方面から新知見が集積され,また急性冠症候群に対する緊急冠動脈造影の普及,高感度トロポニンによる診断技術の発展と相俟って,冠動脈閉塞を伴わない心筋伷塞(myocardial infarctionwith non-obstructive coronary arteries: MINOCA)や心筋虚 血(ischemia with non-obstructive coronary arterydisease: INOCA)の新たな概念が提唱されている
フォーカスアップデート版では,「冠攣縮性狭心症の診断と治療に関するガイドライン(2013年改訂版)」2),「急性冠症候群ガイドライン(2018年改訂版)」17),「慢性冠動脈疾患診断ガイドライン(2018年改訂版)」18) を基に,冠攣縮,CMD,冠微小血管攣縮,非閉塞性冠動脈疾患の位置づけを考えつつ,以下の改訂を行った.
1. 冠攣縮に関連する新たな疾患概念として MINOCA,INOCAを記載した.
2. 冠攣縮の病態,診断,治療において,2013年改訂版以降の新たな知見を追加した.具体的には,
① 病態では,2型アルデヒド脱水素酵素遺伝子多型,冠微小血管攣縮,薬剤溶出性ステント留置後,小児疾患との関連
② 診断では,基準の見直し,血管内超音波法,光干渉断層法,血管内視鏡などの血管内イメージング,CTによる冠血流予備量比,磁気共鳴像などの画像診断,冠血流予備能,冠微小血管抵抗指数などの生理学的検査や,内皮機能検査
③ 治療では,薬物治療,非薬物治療,心臓リハビリテーションの面から追加を行った.
3. 心臓カテーテル検査における冠攣縮薬物誘発試験において,局所的な冠攣縮のみならず,びまん性冠攣縮も陽性とした.
4. 比較的太い心外膜の冠攣縮,血管造影では目視できない血管径の冠微小血管攣縮,さらにCMDの関与する微小血管狭心症について図を用いて関連性を理解できるようにした
冠攣縮の関与
冠攣縮は,血管平滑筋細胞のRhoキナーゼ経路の亢進に基づく過収縮30) や血管内皮からの一酸化窒素の産生低下による内皮機能障害31),血管外膜および周囲脂肪組織の炎症32) が関し,冠動脈局所の収縮を亢進させ,冠血流の低下とそれに引き続いて心筋虚血を生じさせる.また冠攣縮によって凝固系の亢進33),線溶活性の低下34),血小板の活性化と接着分子の放出促進35) が生じるため,易血栓形成の状態となる.冠攣縮による血栓形成を,血管内イメージングを用いて観察した報告がある.光干渉断層法(OCT)で冠攣縮部位を観察した研究では,冠攣縮部位あるいはその近位部の28%に血栓を認め,26%に血栓を伴うプラークびらんを認めた36).他の前向き観察研究では,冠攣縮による急性冠症候群と冠攣縮性狭心症の責任血管のOCT所見を比較し,冠攣縮による急性冠症候群にプラークびらん(69% vs. 27%),内膜の断裂(46% vs. 7%),血栓の付着(28% vs. 5%)が多いことが報告されている37).こらのOCTによる研究や剖検例38)から,急性冠症候群における不安定プラークの破綻の機序の1つとして,冠攣縮による機械的ストレスによってプラーク表層部の線維性被膜の断裂とプラーク内容物の血管内への突出により,血栓を生じることが想定される.またMINOCAの原因のひとつであるSCADにおいて,冠動脈解離の発症機序に冠攣縮の関与が指摘されている39, 40).一方で,10人のSCADに対してアセチルコリン誘発試験と冠血流予備能(CFR)の測定を行い,対照群と比較した後ろ向き研究では,冠攣縮やCMDの関与を認めなかったという報告もあり41),今後,大規模な前向き研究でMINOCAにおけるSCADと冠攣縮の関連を検討する必要がある.その他,心筋架橋(myocardial bridge)と冠攣縮,MINOCAとの関連を検討した単施設前向き観察研究では,アセチルコリン誘発試験陽性所見は心筋架橋を有する症例におけるMINOCAの危険因子であることが報告されている42).またアセチルコリン誘発試験陽性例において心筋架橋はMINOCAの危険因子であるが,陰性例では心筋架橋はMINOCAの危険因子ではないことから,心筋架橋はMINOCAの原因の1つとして考えられ,さらに冠攣縮は心筋架橋によるMINOCA発症の病態に関与している可能性が示唆されている.
2024年8月16日 | カテゴリー:循環器 |