骨髄異形成症候群その①
MDSは多能性骨髄幹細胞における突然変異に起因すると考えられているが、これらの病気の原因となる特異的異常については依然として不明なところが多いままである。
血液の前駆細胞の分化が損われており、骨髄細胞におけるアポトーシス性細胞死が顕著に増加している。異常細胞のクローン性増殖によって分化能を失った細胞の生産が起こる 。
骨髄芽球の総割合が特定の値(WHOでは20%)を超えたとすると、急性骨髄性白血病(AML)への移行が起こったと診断される。MDSからAMLへの進行は、最初に正常細胞において一連の突然変異が起こり、がん細胞へと転換するというクヌードソン仮説の実例である。
白血病への移行の認識は歴史的に重要であったが、MDSに帰せられる病的状態と死亡の相当な割合はAMLへの移行からではなく、むしろ全てのMDS患者において見られる血球減少症に起因する。貧血がMDS患者において最も一般的な血球減少症であるが、輸血が容易に受けられるため、MDS患者が深刻な貧血から損傷を受けることはまれである。血球減少に起因するMDS患者における2つの最も深刻な合併症は(血小板減少による)出血と(白血球減少による)感染症である。長期的な濃厚赤血球の輸血は鉄過剰症を引き起こす
2008年、WHOは遺伝学的な発見により基づいた新たな分類を発表した。2016年にWHO分類が改訂された
2016年版
サブタイプ | 異形成系統数 | 血球減少系統数 | 骨髄中の赤血球の環状鉄芽球の割合(%) | 末梢血または骨髄中の芽球の割合(%) AR: アウエル小体 | 従来型細胞遺伝学 | |||
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wtSF3B1 | mSF3B1 | BM | PB | AR | ||||
MDS-SLD | 1 | 1または2 | 15 | 5 | 5 | 1 | - | |
MDS-MLD | 2または3 | 1–3 | 15 | 5 | 5 | 1 | - | |
MDS-RS-SLD | 1 | 1または2 | ≥15 | ≥5 | 5 | 1 | - | |
MDS-RS-MLD | 2または3 | 1–3 | ≥15 | ≥5 | 5 | 1 | - | |
MDS del(5q) | 1–3 | 1または2 | n.a. | n.a. | 5 | 1 | - | del(7)または-7を伴わない、1つの追加的な細胞遺伝学的異常を伴うまたは伴わない孤立したdel(5q) |
MDS-EB-1 | 0–3 | 1–3 | n.a. | n.a. | 5–9 | 2–4 | - | |
MDS-EB-2 | 0–3 | 1–3 | n.a. | n.a. | 10–19 | 5–19 | + | |
MDS-U | 15 | 5 | 5 | 1 | - | |||
(a) 末梢血中に1%の芽球 | 1–3 | 1–3 | n.a. | n.a. | 5 | 1 | - | |
(b) 汎血球減少を伴うSLD | 1 | 3 | n.a. | n.a. | 5 | 1 | - | |
(c) 決定的な細胞遺伝学的異常 | 0 | 1–3 | 15 | n.a. | 5 | 1 | - | 細胞遺伝学的異常を定義するMDS |
RCC | 1–3 | 1–3 | 15 | ≤5 | 5 | 1 | - |
2008年版
分類 | 末梢血中の 芽球の割合 | 骨髄中の 芽球の割合 | 特徴 | FAB分類 | |
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単一血球系統の異形成を伴う不応性血球減少症(RCUD) | 不応性貧血(RA) | <1% | <5% | 骨髄で1血球系統で10%以上の細胞に異形成、 赤芽球のうち環状鉄芽球15%未満。 | 不応性貧血(RA) |
不応性好中球減少症(RN) | |||||
不応性血小板減少症(RT) | |||||
鉄芽球性不応性貧血 (RARS) | RARS | 赤芽球系の異形成のみ。環状鉄芽球が全赤芽球の15%以上を占めるもの。芽球5%未満。環状鉄芽球とはミトコンドリアに鉄が沈着し、プロシャ青染色で鉄顆粒が核に沿って核周の1/3以上に環状に配列したものである。 | RARS | ||
RARS-T(暫定) | 血小板増加を伴うRARS。本質的には骨髄異形成-骨髄増殖性疾患であり、大抵はJAK2変異を持つ。 | ||||
多血球系異形成を伴う不応性血球減少症(RCMD) | RCMD | 2血球系統以上で10%以上の細胞に異形成。アウエル小体なし。環状鉄芽球が全赤芽球の15%未満。 | |||
RCMD-RS | 環状鉄芽球を有するRCMD | ||||
芽球増加を伴う不応性貧血-1 (RAEB-I) | <5% | 5-9% | アウエル小体なし。 | RAEB | |
芽球増加を伴う不応性貧血-2 (RAEB-II) | 5-19% | 10-19% | 末梢血中のアウエル小体が5%未満。急性骨髄性白血病と区別するのが困難。 | ||
分類不能MDS (MDS-U) | <1% | <5% | 上記のいずれにも属さないもの。顆粒球系にのみ異形成が見られるものなど。 | ||
5q-症候群 | 染色体異常として5q-(5番染色体の長椀欠失)を有するタイプ。不応性貧血に類似するが、巨核球が小型で単核であるという特徴がある。最も白血病になりにくい。 |
MDS治療のためにアメリカ食品医薬品局(FDA) によって認可された3種類の薬の内の2種類の成功によってMDSにおけるDNA構造のエピジェネティク変化が認識された。適切なDNAメチル化は増殖遺伝子の制御に決定的に重要な意味を持ち、DNAメチル化制御が失われることによって無制御な細胞増速と血球減少症が引き起こされ得る。近年承認されたDNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤は、造血幹細胞核におてより秩序だったDNAメチル化様式を作ることによってこの機構をうまく利用し、それによって正常な血球数に戻し、MDSの急性白血病への進行を遅らせる。
一部の著者らは、長い期間をかけたミトコンドリアの機能の消失が造血幹細胞におけるDNA変異を蓄積させ、これが高齢の患者におけるMDSの発症率の上昇の主な原因であると提唱している。研究者らは、MDSにおけるミトコンドリアミトコンドリア機能不全の証拠として環状鉄芽球におけるミトコンドリアの鉄沈着の蓄積を指摘する。
少なくとも1974年以降、5番染色体長腕の欠損が造血幹細胞の異形成異常と関連することが知られている。2005年までに、抗がん剤のレナリドミドが5q-症候群のMDS患者に有効であることが認知され、2005年12月に米国FDAはレナリドミドをこの症状に対して承認した。孤立性5q-、低IPSSリスク、輸血依存性の患者がレナリドミドに最もよく反応する。典型的に、これらの患者の予後は好ましく、生存期間の中央値は63か月である。レナリドミドは二重の作用を持つ。一つは5q-の患者において悪性クローン数を低下させることによる作用、もう一つは5q欠損を持たない患者で見られるように健康な赤血球系細胞のよい良い分化を誘導することによる作用である。
スプライシング因子における変異がMDSの症例の40-80%、特に環状鉄芽球を有する患者において見られる。
イソクエン酸デヒドロゲナーゼ1および2(IDH1およびIDH2)をコードする遺伝子における変異がMDS患者の10-20%で起こっており、低リスクMDSにおける予後悪化因子である。IDH1/2変異は病気の悪性度の上昇と共に上昇するため、IDH1/2変異がMDSのより悪性な病気状態への進行の重要なけん引役であることが示唆されている。
2024年8月16日 | カテゴリー:白血球異常 白血病・骨髄異形成症候群 |