統計アンサンブルについて
統計集団(とうけいしゅうだん、英: statistical ensemble)とは、統計力学における基本的な概念の一つで、巨視的に同じ条件下にある力学的に同じ系を無数に集めた仮想的な集団である[1]。統計的(とうけいてき)アンサンブル、確率集団(かくりつしゅうだん)、ギブズ集団、あるいは単にアンサンブルとも呼ばれる。 巨視的には同じ条件下にあっても、微視的に見る(それを構成する分子などに着目する)と非常に沢山の状態(微視的状態)を含む。各微視的状態がどのような確率で出現するかはアンサンブルによって異なる。この確率で重み付けした[何の?]加重平均をアンサンブル平均と呼ぶ。
歴史
ボルツマンらによる気体分子運動論の立場では、理想気体を多数の分子の集まりであると考える。多数の分子が衝突を繰り返して、個々の分子の力学状態が確率的に現れるものと見なされる(分子的混沌)。当時はまだ分子の存在が確証されていなかったため批判を受けた。 これに対して1878年にウィラード・ギブズによって導入された統計集団の立場では、力学系全体の力学状態が確率的に現れるものと見なされる[1]。この立場では必ずしも分子の存在を仮定する必要がない。今日では統計集団の考え方が統計力学の主流となった。
主要なアンサンブル
巨視的な制約条件が異なれば、アンサンブルも異なり、それに特定の統計的性質がある。次のようなものが代表的である:[2]
- 小正準集団
- (ミクロカノニカルアンサンブル、microcanonical ensemble、NVE ensemble)
- 全エネルギーが一定である系のアンサンブル。熱的に孤立しており、熱力学的には孤立系に当たる。系が許す全ての微視的状態は同じ確率で現れる(等確率の原理)。つまり、微視的状態ωが出現する確率p(ω)は
p(ω)=1W
- で与えられる[3]。ここで、Wは系が取りうる微視的状態の総数であり、WはエントロピーSと
S=kBlnW
- の関係にある[4](ボルツマンの原理)。
- 正準集団
- (カノニカルアンサンブル、canonical ensemble、NVT ensemble)
- 巨大な熱浴との間でエネルギーをやりとりできる系のアンサンブル。熱浴の熱容量は十分大きく、系の温度は一定であると仮定できるとする。これは閉鎖系に当たる。この集団で、微視的状態ωが出現する確率p(ω)は
p(ω)=1Ze−βE(ω)
- で与えられる[5]。ここで、βは逆温度、E(ω)は微視的状態ωのエネルギーである。ZはZ=∑ωe−βE(ω)
- で定義される分配関数[6]と呼ばれる量である。Zはヘルムホルツの自由エネルギーと
F=−1βlnZ
- の関係にある[7]。
- 大正準集団
- (グランドカノニカルアンサンブル、grand canonical ensemble)
- やはり熱浴と接触しているが、粒子のやり取りもでき、温度が一定であるような統計集団である。微視的状態ωが出現する確率p(ω)は
p(ω)=1Ξe−β(E(ω)−μN(ω))
- で与えられる[8]。ここで、βは逆温度、μは化学ポテンシャル、E(ω)、N(ω)は微視的状態ωのエネルギーと粒子数である。Ξは
- Ξ=∑ωe−β(E(ω)−μN(ω))
- で定義される大分配関数[8]と呼ばれる量である。ΞはグランドポテンシャルJと
J=−1βlnΞ
2024年12月10日 | カテゴリー:AUTODOCK VINA |