多発性硬化症
多発性硬化症(MS) | |
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症状 | 視力障害、運動麻痺、感覚障害、めまい、排尿・排便・性機能の障害、理解力の低下、忘れっぽくなる、疲れやすいなど |
発症年齢 | 20~40歳で最も多く、15~60歳の間はいつでも発症する可能性がある |
性別 | 女性に多く、男女比は1:2~3程度 |
治療 | 急性増悪期の治療、再発防止及び進行防止の治療、急性期及び慢性期の対症療法、リハビリテーションなど |
予後 | 80%は天寿を全うする |
MSになるはっきりした原因はまだ分かっていませんが、自己免疫説が有力です。私達の身体は細菌やウイルスなどの外敵から守られているのですが、その主役が白血球やリンパ球などですが、これらのリンパ球などが自分の脳や脊髄を攻撃するようになることがあり、それがMSの原因ではないかと考えられています。このことにより、先ほど述べた髄鞘が傷害され(脱髄)、麻痺などの神経症状が出るのです。なぜ自分の脳や脊髄を攻撃するのかはまだ分かっていませんが、遺伝的な因子と、先ほど述べた環境因子が影響していると考えられています。一方、NMOSDではAQP4抗体が重要な役割をすることが明らかにされつつありますが、NMOSDに特徴的な症状を呈するものの、この抗体が陰性の患者もいます。最近、この陰性の患者群の一部において、ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG)抗体が陽性の患者がいることが明らかになり、その臨床的特徴が報告されるようになってきました。ただ、NMOSDにおいても解明されていないことがまだ多くあり、今後の研究結果が待たれます。
MSやNMOSDでは、親から子に病気が遺伝することはありません。ただ、アレルギー体質が遺伝するように、MSやNMOSDになりやすさに関わる体質遺伝子が遺伝することはありえます。このなりやすさを決定する遺伝子として色々なものが上げられていますが、今のところ ヒト白血球抗原 (HLA)という遺伝子が重要であると言われています。私達の赤血球にはA型、B型、O型といった血液型があるように、白血球にも血液型があり、その一つがHLAです。HLA-DRB1*15:01やHLA-DRB1*04:05などのHLAのアレルを持っている人は、MSになりやすいと言われています。
MSやNMOSDの症状はどこに病変ができるかによって千差万別です。視神経が障害されると視力が低下したり、視野が欠けたりします。この症状が出る前や出ている最中に目を動かすと目の奥に痛みを感じることがあります。脳幹部が障害されると目を動かす神経が麻痺してものが二重に見えたり( 複視 )、目が揺れたり(眼振)、顔の感覚や運動が麻痺したり、ものが飲み込みにくくなったり、しゃべりにくくなったりします。小脳が障害されるとまっすぐ歩けなくなり、ちょうどお酒に酔った様な歩き方になったり、手がふるえたりします。大脳の病変では手足の感覚障害や運動障害の他、 認知機能 にも影響を与えることがあります。ただし、脊髄や視神経に比べると脳は大きいので、病変があっても何も症状を呈さないこともあります。脊髄が障害されると胸や腹の帯状のしびれ、ぴりぴりした痛み、手足のしびれや運動麻痺、尿失禁、排尿・排便障害などが起こります。脊髄障害の回復期に手や足が急にジーンとして突っ張ることがあります。これは有痛性 強直性 痙攣といい、てんかんとは違います。熱い風呂に入ったりして体温が上がると 一過性 にMSの症状が悪くなることがあります。これはウートフ現象といいます。一般に同じ目や手足の症状でも、NMOSDにおける再発ではMSに比べより症状が 重篤 になることが多いです。さらにNMOSDでは、MSではほとんどみられない、吃逆、嘔吐、傾眠などが出現することもあります。
MSを診断する上で最も重要な検査は、核磁気共鳴画像(MRI)です。この検査では、MSの病巣はT2強調画像およびフレア画像で白くうつります。また、急性期の病変はガドリニウムという造影剤を注射すると、造影剤が漏れ出てT1強調画像で白くうつることがあるので、参考になります。一方,脱髄病変に不可逆性の 軸索 変性 が生ずると、T1強調画像で黒くうつることがあります。次に大切な検査は、髄液検査です。MSでは脳や脊髄の病変部位には炎症がありますので、脳脊髄液に 炎症反応 があるかどうかをみることが重要です。そのために髄液検査を行います。これは腰の部分に針を刺して脳脊髄液をとってしらべるものです。急性期のMSでは蛋白質の増加、 免疫グロブリン IgGの上昇、オリゴクローナルIgGバンドの出現など炎症や免疫反応 亢進 を反映した所見が見られます。また髄鞘の破壊を反映して、髄鞘の成分であるミエリン塩基性蛋白の増加が見られることがあります。脱髄が起こると電線がむき出しになり、電気の伝導が遅くなります。この伝導の障害をとらえる検査法が、誘発電位検査です。視覚誘発電位、聴覚誘発電位、体性感覚誘発電位など様々な方法が応用されています。NMOSDでは、AQP4抗体といわれる自己抗体が高率に認められます。また、NMOSDにおける脊髄炎の急性期には、MRIにて3椎体以上に渡る脊髄長大病変が出現しやすいことが知られています。
急性期にはステロイドを使います。ステロイドパルス療法と言って、500mgないし1,000mgのメチルプレドニゾロンというステロイドを2~3時間かけて1日1回点滴静注し、これを3~5日間行います。症状の改善がみられない場合、この治療を繰り返したり、 血漿浄化療法 という治療を行ったりすることがあります。ステロイドの長期連用には、糖尿病や 易感染性 、肥満、胃十二指腸潰瘍、骨粗鬆症、大腿骨頭 壊死 などの副作用が出現する危険性が増すため、ステロイドパルス療法後に経口ステロイドを投与する場合でも(後療法と言います)、概ね2週間を超えないように投与計画がなされることが多くなっています。リハビリテーションを並行して行うこともあります。対症療法として有痛性強直性痙攣に対しカルバマゼピンを、手足の突っ張り(痙縮)に対してはバクロフェンなどの抗痙縮薬、排尿障害に対しては抗コリン薬など適切な薬剤を服用します。
MSの再発予防には、我が国では現在8種類の薬剤が認可されています。自己注射薬として、インターフェロンβ-1b、インターフェロンβ-1a、グラチラマー酢酸塩、オファツムマブ、4~7週に一回の点滴薬としてナタリズマブ、内服薬としてフィンゴリモド、フマル酸ジメチル、シポニモドがありますが、どれが良いかは病状や生活スタイル、懸念すべき副作用などによりますので、主治医とよくご相談下さい。一方、NMOSDにおける再発予防には、経口ステロイドや免疫抑制薬が用いられるほか、エクリズマブ、サトラリズマブ、イネビリズマブ、リツキシマブ、ラブリズマブなどのモノクローナル抗体製剤が承認されています。
通常型MSの多くは再発・ 寛解 を繰り返しながら慢性に経過します。一部のMSでは最初からあるいは初期に再発・ 寛解 を示した後、しだいに進行性の経過をとる場合があります(一次性および二次性進行型MS)。再発の回数は年に3~4回から数年に1回と人によって違います。再発を繰り返しながらも障害がほとんど残らない患者さんがおられる反面、何度か再発した後、時には最初の発病から寝たきりとなり、 予後 不良の経過をとる患者さんがおられますので、MSの診断がついたらなるべく早く再発予防のための治療薬を開始するよう勧められています。一方、NMOSDでは進行型を呈する方はほとんどなく、再発型とされています。NMOSDの再発は視力障害や脊髄障害などの症状が 重篤 になることが多いため、生涯にわたって再発予防の治療を行う必要があります。
過労やストレス、感染などは再発の危険因子とされていますので、可能な範囲で避けた方が良いと思います。また、体温が高くなると調子が悪くなるウートフ現象が出ることがありますので、そのような場合には高い温度の風呂やサウナは避けた方が良いと思います。ただ、あまり神経質にならない方が良いでしょう。
The epidemiology of MS indicates that low serum levels of vitamin D, smoking, childhood obesity and infection with the Epstein-Barr virus are likely to play a role in disease development. Changes in diagnostic methods and criteria mean that people with MS can be diagnosed increasingly early in their disease trajectory. Alongside this, treatments for MS have increased exponentially in number, efficacy and risk. There is now the possibility of a diagnosis of 'pre-symptomatic MS' being made; as a result potentially preventive strategies could be studied. In this comprehensive review, MS epidemiology, potential aetiological factors and pathology are discussed, before moving on to clinical aspects of MS diagnosis and management.
Although genetic susceptibility explains the clustering of multiple sclerosis (MS) within families and the sharp decline in risk with increasing genetic distance, it cannot fully explain the geographical variations in MS frequency and the changes in risk that occur with migration, which support the action of strong environmental factors. Among these, vitamin D status, obesity in early life, infection with the Epstein-Barr virus, and cigarette smoking are the most consistent environmental predictors of MS risk. The authors review the epidemiological data, critically discuss the evidence for causality of these and other associations, and briefly review the possibility of interventions to reduce MS risk.
Autoimmune diseases, including multiple sclerosis (MS), are proven to increase the likelihood of developing cardiovascular disease (CVD) due to a robust systemic immune response and inflammation. MS can lead to cardiovascular abnormalities that are related to autonomic nervous system dysfunction by causing inflammatory lesions surrounding tracts of the autonomic nervous system in the brain and spinal cord. CVD in MS patients can affect an already damaged brain, thus worsening the disease course by causing brain atrophy and white matter disease. Currently, the true prevalence of cardiovascular dysfunction and associated death rates in patients with MS are mostly unknown and inconsistent. Treating vascular risk factors is recommended to improve the management of this disease. This review provides an updated summary of CVD prevalence in patients with MS, emphasizing the need for more preclinical studies using animal models to understand the pathogenesis of MS better. However, no distinct studies exist that explore the temporal effects and etiopathogenesis of immune/inflammatory cells on cardiac damage and dysfunction associated with MS, particularly in the cardiac myocardium. To this end, a thorough investigation into the clinical presentation and underlying mechanisms of CVD must be conducted in patients with MS and preclinical animal models. Additionally, clinicians should monitor for cardiovascular complications while prescribing medications to MS patients, as some MS drugs cause severe CVD.
Multiple sclerosis (MS), is a chronic disease of the central nervous system (CNS) characterized by loss of motor and sensory function, that results from immune-mediated inflammation, demyelination and subsequent axonal damage. MS is one of the most common causes of neurological disability in young adults. Several variants of MS (and CNS demyelinating syndromes in general) have been nowadays defined in an effort to increase the diagnostic accuracy, to identify the unique immunopathogenic profile and to tailor treatment in each individual patient. These include the initial events of demyelination defined as clinically or radiologically isolated syndromes (CIS and RIS respectively), acute disseminated encephalomyelitis (ADEM) and its variants (acute hemorrhagic leukoencephalitis-AHL, Marburg variant, and Balo's concentric sclerosis), Schilder's sclerosis, transverse myelitis, neuromyelitis optica (NMO and NMO spectrum of diseases), recurrent isolated optic neuritis and tumefactive demyelination. The differentiation between them is not only a terminological matter but has important implications on their management. For instance, certain patients with MS and prominent immunopathogenetic involvement of B cells and autoantibodies, or with the neuromyelitic variants of demyelination, may not only not respond well but even deteriorate under some of the first-line treatments for MS. The unique clinical and neuroradiological features, along with the immunological biomarkers help to distinguish these cases from classical MS. The use of such immunological and imaging biomarkers, will not only improve the accuracy of diagnosis but also contribute to the identification of the patients with CIS or RIS who, are at greater risk for disability progression (worse prognosis) or, on the contrary, will have a more benign course. This review summarizes in a critical way, the diagnostic criteria (historical and updated) and the definitions/characteristics of MS of the various variants/subtypes of CNS demyelinating syndromes.
2024年10月26日 | カテゴリー:脳神経系疾患 |