唾液腺腫瘍について
唾液腺腫瘍(だえきせんしゅよう)とは、唾液腺(耳下腺・顎下腺・舌下腺や小唾液腺)に発生する腫瘍のことである。
良性腫瘍、悪性腫瘍(癌腫、悪性リンパ腫など)のいずれも発生し、良性腫瘍の一部は癌化することが知られている。2005年に改定された唾液腺腫瘍のWHO分類が用いられる。
発生場所により、耳下腺良性腫瘍、耳下腺癌、顎下腺悪性リンパ腫などと呼ばれる。
耳下腺での発生率が最も高く64~80%、ついで顎下腺が7%~11%、舌下腺は1%以下で、小唾液腺は9~23%とされる
そのほか、良性腫瘍、悪性腫瘍のどちらも多形腺腫に代表されるようにさまざまな組織像を呈するのが特徴である。
分類
悪性
- 腺房細胞癌
- 粘表皮癌
- 腺様嚢胞癌
- 多型低悪性度腺癌
- 上皮筋上皮癌
- 明細胞癌
- 基底細胞腺癌
- 脂腺癌
- 脂腺リンパ腺癌
- 嚢胞腺癌
- 粘液腺癌
- オンコサイト癌
- 唾液腺導管癌
- (非特異型)腺癌
- 筋上皮癌
- 多形腺腫由来癌
- 癌肉腫
- 転移性多形腺腫
- 扁平上皮癌
- 小細胞癌
- 大細胞癌
- リンパ上皮癌
- 唾液腺芽腫
良性
診断
触診などの理学的所見に加え、超音波検査(頸部エコー検査)、CT検査、MRI検査、PET/CT検査、RI検査、細胞診断、血液検査などの検査を行い、良悪性の判断や治療方針の決定を行う。悪性腫瘍であれば、他の悪性疾患と同じく、リンパ節転移や肺転移、骨転移などを来たし、予後は非常に悪い。
多形腺腫
腺房細胞癌(せんぼうさいぼうがん、英語: Acinic cell carcinoma)は唾液腺腫瘍の一つ。比較的まれな腫瘍。耳下腺で発生することが多い。緩慢な成長をし、時に疼痛や圧痛を持つこともある。1972年のWHO分類では腺房細胞腫とされていたが、高分化で良性に見える病理組織でも再発・転移が見られ、1991年の分類から現在の名称となる[1]。漿液腺房細胞に類似した性状が特徴である。
膵臓においても発生する。膵臓の腺房細胞癌の形は膵外分泌癌のまれな亜型である。膵外分泌癌は膵内分泌腫瘍と比べると膵癌においては一般的なものである[2]。
腺房細胞癌は耳下腺で最も良く発生し、そのほか、顎下腺や他の唾液腺において発生するが、原発が咽頭傍間隙や舌下腺に発生することはまれである[3]。
腺様嚢胞癌(せんようのうほうがん、adenoid cystic carcinoma、ACC)とは、悪性腫瘍の一つ。
涙腺・唾液腺・乳腺など、筋上皮細胞という構造をもち分泌物を能動的に搾り出す機能のある外分泌腺より生ずる。なお、きわめてまれには子宮など正常なら筋上皮細胞を持たないはずの器官に生ずることがあり、化生した細胞あるいは多能性の上皮性幹細胞由来と考えられている。
唾液腺腫瘍では、頻度が高く、細胞異型は高くないが浸潤傾向が強く転移率高い。再発を繰り返し、最終的には予後不良となる場合もある。篩状構造が特徴的であるが、その他に充実性あるいは腺管構造が優位な例も多く見られる。
神経症状が出ることが多く、顔面神経麻痺を伴うこともある。肺、骨、皮膚への血行性転移も報告されている。
50歳前後の女性に好発する。
再発率高く増殖は比較的遅いが、予後は不良で特に顎下腺、舌下腺では不良である。神経周囲への浸潤もあることから切除に際しては十分な安全域確保が必要である。
組織学的には、導管上皮様細胞と腫瘍性筋上皮細胞が大小の充実性胞巣を形成して増殖・浸潤している。胞巣内に大小の腔がみられる篩状の胞巣(スイスチーズ様とも表現される)も特徴的な像として観察される。これらには導管上皮様細胞で裏装された真の腺腔と腫瘍性筋上皮細胞の基底面で囲まれた偽嚢胞が区別される。また、神経線維束を囲むように浸潤する像も見られる。篩状構造を有する唾液腺腫瘍は多く、篩状構造が一部に見られるからといって安易に診断すべきではないことが注意される。
粘表皮癌(ねんひょうひがん、英語: mucoepidermoid carcinoma)とは、上皮性悪性腫瘍(癌腫)の組織型の一つ。
粘液産生細胞、類表皮細胞およびこれらの細胞より小型で形態的にどちらにも属さない中間型の細胞からなる。唾液腺や、気道の呼吸線毛上皮に覆われた領域の外分泌腺、子宮頸部などより生ずる。
悪性唾液腺腫瘍としては頻度の高いものの一つである。ただし、5年生存率は80%と良い。すなわち多くは比較的予後が良いものである。しかし、中には予後の悪い分化度が低いものもある。
耳下腺に多く、小唾液腺では40%は口蓋に生ずる。30-40代好発でやや女性に多い。10歳以下では稀であるが小児の悪性腫瘍の中では一般的である。
被膜は不明瞭で、低分化なものでは周囲組織への浸潤が目立つ。始めは疼痛はないが大きくなると疼痛と神経障害を生じ通常1年以内に自覚する。顎骨内に発生することもある。
肺内の気管支腺より生じたものは、稀な組織型の肺癌として認識される。
組織病理学的には、嚢胞性に拡張した腺管や不整形の腺管には粘液産生の明瞭な細胞質の明るい細胞が認められる。周囲には、敷石状の配列を示す扁平上皮様細胞や充実性胞巣を形成する中間型の細胞の増殖が認められる。扁平上皮様の細胞には角化は見られず、間質は線維性組織で、腫瘍被膜は不明瞭である。
2024年8月8日 | カテゴリー:癌の病態生理と治療学 |