下痢について
下痢原性細菌毒(エンテロトキシン)は、腸管上皮細胞に作用して下痢を引き起こす毒素です。これらの毒素は、イオンチャンネルを介して細胞内のイオンバランスを乱し、水分の過剰な分泌を引き起こします。
具体的なメカニズム
エンテロトキシンの作用:
イオンチャンネルの役割:
このように、下痢原性細菌毒はイオンチャンネルを介して腸管上皮細胞のイオンバランスを乱し、結果として大量の水分が腸管内に分泌されることで下痢を引き起こします。
O-157だけじゃない!下痢などを引き起こす病原性大腸菌とは
大腸菌は家畜・人間の大腸内、環境中にも広く生息している微生物で、多くは害がありません。ただ中にはひどい下痢や腹痛などといった症状を引き起こす大腸菌も存在しています。それらは病原性大腸菌と呼ばれます。今回は病原性大腸菌についてどのような種類があるのか、紹介していきます。
病原性大腸菌とは?
病原性大腸菌は下痢や腹痛、下血など消化器症状を伴うもので、下痢原性大腸菌とも呼ばれています。一般的に以下の5種類に分けられます。
- 腸管出血性大腸菌(EHEC)
- 毒素原性大腸菌(ETEC)
- 腸管侵入性大腸菌(EIEC)
- 腸管病原性大腸菌(EPEC)
- 腸管凝集接着性大腸菌(EAggEC)
腹痛や下痢などを起こすメカニズムは種類によって様々です。腸管の中で大腸菌が出す毒素が原因だったり、腸の細胞に侵入・増殖して壊死させたりするものがあります。
今回は集団感染の原因にもなる、代表的な3つの病原性大腸菌について解説します。
腸管出血性大腸菌(EHEC)
大腸の粘膜内に付着して増殖していきます。そのときにベロ毒素を出し、そのベロ毒素が血液中に入ると腹痛や下痢、ひどい場合は腸粘膜の浮腫(むくみ)や出血、壊死などを引き起こします。腎障害などから死に至る場合がある恐ろしい病原菌です。
他の食中毒の症状と同じように、徐々に回復していきますが、小児や高齢者などの重症事例では溶血性尿毒症症候群(HUS)や急性脳症を引き起こす場合があります。
食中毒にとどまらず、人から人へ感染することもあります。また感染力が強いため少量の菌でも感染します。有名な型はO-157ですが、それ以外にもO26やO111などがあり、潜伏期間は2~8日ほどです。
腸管出血性大腸菌は牛や家畜などの糞便中にときどき見つかります。ただ家畜ではヒトと違い症状を出さないことが多いため、外からでは菌を持っているかどうかは分かりません。
O-157の感染事例の原因食品と特定、あるいは推定された食品の一例を紹介します。
- 井戸水
- 牛肉
- 牛レバー刺し
- ハンバーグ
- 牛角切りステーキ
- 牛タタキ
- ローストビーフ
- 鹿肉
- サラダ
- かいわれ大根
- キャベツ
- メロン
溶血性尿毒症症候群
ベロ毒素が血液中に入り、腎臓や脳を侵し、貧血や出血を伴った急性腎不全を引き起こします。このほか尿が出なかったり、極端に少なかったりする場合があります。
最悪命を落とすので、早急な治療が必要です。治療には、点滴・利尿薬・血液透析・血漿交換などと合わせ、感染症治療も同時に行う必要があります。
子供、高齢者は特に注意します。
急性脳症
意識障害や痙攣(けいれん)を伴います。呼吸や血液の循環を安定させて回復を図っていきますが、治りが良くない場合も少なくありません。
毒素原性大腸菌(ETEC)
毒素を作り出し、コレラのような激しい下痢を引き起こすのが特徴です。症状には腹痛と水のような激しい下痢、嘔吐が挙げられます。
毒素には熱に弱いものと、熱に強いタイプの2通りがあり、潜伏期間は12~72時間ほどです。
海外旅行者症下痢症の原因菌として知られています。また病原性大腸菌が原因の集団下痢症では最も多くみられます。
腸管病原性大腸菌(EPEC)
小腸の細胞に大腸菌がピッタリとくっついて破壊していきます。主な症状は腹痛と下痢、発熱です。また重症の場合は脱水症状を引き起こす可能性があります。下痢では粘っこいタイプと、水のような下痢が出てくるタイプに分けられます。
乳幼児の胃腸炎の原因菌として有名ですが、成人でも年間5~10件ほど感染した例がみられます(国立感染症研究所より)。特に乳幼児は脱水症状に陥ると大変危険なため、注意が必要です。潜伏期間は12~72時間です。
病原性大腸菌の治療は?
治療は対症療法と抗生物質を使用することが基本です。下痢が激しい場合は脱水症状を引き起こす可能性があるので、特に高齢者や乳幼児には点滴などの輸液を受ける必要があります。
また下痢止めはかえって原因菌を腸内にとどめてしまい、状態が悪化する可能性があります。医師の指示に従って服用するようにしてください。
食事は胃腸に優しく消化吸収の良いものにして、水分を多く摂って安静にしていることをおすすめします。
病原性大腸菌の予防は?
食肉、特に牛肉を使用した料理では生肉や加熱不十分なものを食べないことは大切です。また海外に旅行に行ったときなどに安易に井戸水を飲まないことです。大腸菌に汚染されている可能性があります。もしも十分に加熱されていない肉を食べて症状が出た場合は、早めに医療機関を受診してください。
予防方法
- 手洗いをこまめに行う。
- 生肉を扱う際は専用の調理器具を使用し、すぐに洗浄・消毒をする。
- 焼肉やバーベキューで箸などを使うときは、「肉を焼く用」と「食べる用」に使い分ける。
- 冷蔵庫内やクーラーボックス内で肉汁が他の食品に付着しないように気をつける。
- 海外などでは特に生水を飲まない。
- ペットなどの動物に触れた後は特に丁寧に手を洗う。
特に腸管出血性大腸菌はサルモネラ菌や腸炎ビブリオなどの食中毒菌と同様に加熱や消毒薬により死滅します。普段から対策を行うことで予防できます。
2024年11月17日 | カテゴリー:消化管学 |