乳がんの4次治療で使用される新しい分子標的薬
- エンハーツ(トラスツズマブ デルクステカン: T-DXd) - HER2低発現の乳がんに対して使用される抗体薬物複合体(ADC)です。
- CDK4/6阻害薬 - パルボシクリブやアベマシクリブなどがあり、ホルモン受容体陽性の再発・進行乳がんに対して使用されます2。
「CDK4/6阻害薬」は分子標的薬です。乳がんの増殖や転移に関係する酵素である「CDK4」と「CDK6」の働きを抑制するというユニークなメカニズムで治療効果を発揮します。現在日本で販売されているのは、パルボシクリブ(2017年9月承認)とアベマシクリブ(2018年9月承認)の2種類です。
CDK4/6阻害剤の特徴は、内分泌治療と併用できることです。パルボシクリブ、アベマシクリブで、内分泌治療の無増悪生存期間(がんが進行せず安定した期間)が2倍延長したという臨床試験の結果が報告されています。統計学的に有意な差を認めないものの、全生存期間も伸びたといいます。抗がん剤を使う時期が少しでも遅らせることができるのは大きな意味があります。
CDK4/6阻害薬によって、再発・進行乳がん患者さんの半数以上が大きなメリットを享受できるようになりました。気になるのは副作用です。両薬剤とも日本での使用経験はまだ2年足らずで、今後情報が蓄積されるのを待つしかありませんが、臨床試験ではパルポシクリブは白血球の減少による感染症リスクが報告されています。アベマシクリブについては下痢、胃炎、軽い吐き気などの消化器症状などが報告されています。
- PARP阻害薬(リムパーザ: オラパリブ) - BRCA遺伝子変異陽性の乳がんに対して使用されます。
オラパリブ (Olaparib, AZD-2281, Ku-0059436) は、進行した卵巣癌への分子標的治療薬として、アストラゼネカの リムパーザ(Lynparza) が2014年12月に米国食品医薬品局(FDA)と欧州医薬品庁(EMA)から承認を得ている[。日本でも2018年1月に「白金系抗悪性腫瘍剤感受性の再発卵巣癌における維持療法」を効能・効果として承認。2018年7月2日「がん化学療法歴のあるBRCA遺伝子変異陽性かつHER2陰性の手術不能又は再発乳癌」についても適応が承認された。
DNA修復に関与するポリADPリボースポリメラーゼを阻害するPARP阻害剤である。がん抑制遺伝子であるBRCA1やBRCA2に変異をもつがんは本剤に感受性が高く、BRCA1/2遺伝子に変異を有する卵巣癌、乳癌、前立腺癌、膵臓癌等の治療に用いられる。
400 mgを1日2回経口摂取する。1日の合計摂取量は800 mg。1週間分となる 50 mgカプセル112個入りボトル が $3,000 で販売されている。
選択的阻害剤の一種であり PARP-1 と PARP-2 への作用 IC50 はそれぞれ 5 nM と 1 nMである。400 mgを1日2回摂取した時の血中濃度は Cmax ss = 1.18-14.2 µg/mL、AUC0-12 = 6.48-154 µg.h/mL。
ヒト正常細胞においてもPARP阻害薬オラパリブは作用し、ゲノム不安定性を招き染色体異常が増加する。進行癌以外でPARP阻害薬を使用する場合は注意が必要。
重大な副作用として、骨髄抑制〔貧血(33.7%)、好中球減少(14.4%)、白血球減少(12.1%)、血小板減少(8.8%)、リンパ球減少(7.4%)等〕と間質性肺疾患(0.9%)が知られている。
- PD-L1抗体(キイトルーダ: ペムブロリズマブ) - PD-L1陽性のトリプルネガティブ乳がんに対して使用されます1。
2024年9月22日 | カテゴリー:各種治療学, 癌の病態生理と治療学 |