ベイズ統計と統計物理
カノニカル分布(canonical distribution)は、ギプス分布ともいい、統計力学や確率論において重要な概念です。特に、物理学や化学の分野で、系のエネルギー状態の分布を記述するために用いられます。
カノニカル分布は、次のように定義されます:
ここで、
P(E)P(E) はエネルギー EE の状態の確率です。
ee は自然対数の底(約2.718)です。
kBk_B はボルツマン定数です。
TT は絶対温度です。
ZZ は分配関数で、全てのエネルギー状態の確率の和が1になるように正規化するための定数です。
カノニカル分布は、特定の温度における系のエネルギー状態の分布を示し、エネルギーが高い状態ほどその確率が低くなることを示しています。これは、エネルギーが高い状態ほど熱的に不安定であるためです。
この分布は、熱力学的平衡状態にある系の性質を理解するための基本的なツールとなります。
統計物理学で用いられてきた計算アルゴリズムを確率的推論に
持ち込む作業が大事
動的なモンテカルロ法(Dynamic Monte Carlo method)は、確率論的手法を用いて動的システムの時間発展をシミュレーションする方法です。特に、物理学や化学の分野で、分子の運動や反応過程をモデル化するために使用されます。
この方法は、以下の手順で進行します:
初期状態の設定: システムの初期状態を定義します。例えば、分子の位置や速度など。
遷移確率の計算: システムが次の状態に遷移する確率を計算します。これは、エネルギー差や温度などのパラメータに依存します。
乱数生成: 乱数を生成し、遷移確率に基づいて次の状態を決定します。
時間の進行: システムの時間を進め、次の状態に移行します。
繰り返し: 上記の手順を繰り返し、システムの時間発展をシミュレーションします。
動的なモンテカルロ法は、特に複雑なシステムの挙動を解析するのに有効です。例えば、材料科学における結晶成長や、化学反応の動力学を研究する際に利用されます。
不変分布(invariant distribution)は、確率過程やマルコフ連鎖において重要な概念です。特に、システムが長時間にわたってどのような状態にあるかを記述するために用いられます。
不変分布は、次のように定義されます:
システムが時間とともに変化しても、その分布が変わらない状態を指します。
マルコフ連鎖において、不変分布は遷移行列 PP に対して次の関係を満たします:$$\pi P = \pi$$ ここで、π\pi は不変分布を表すベクトルです。
不変分布は、システムが長時間にわたって観測されたときに、各状態に存在する確率を示します。これは、システムが平衡状態に達したときの状態分布とも言えます。
例えば、ランダムウォークやページランクアルゴリズムなど、多くの応用分野で不変分布が利用されています。
平衡統計力学(へいこうとうけいりきがく)は、物理学の一分野で、微視的な粒子の運動や相互作用を基に、巨視的な物理量(例えば温度、圧力、エネルギーなど)を統計的に扱う学問です。具体的には、以下のような内容が含まれます:
微視的な粒子の運動: 原子や分子などの微視的な粒子の運動を記述し、その運動が巨視的な物理量にどのように影響するかを考えます。
確率論の応用: 微視的な粒子の運動を確率論的に扱い、巨視的な物理量の平均的な振る舞いを導き出します。
平衡状態の解析: 系が平衡状態にあるときの物理量を解析し、その状態がどのようにして達成されるかを研究します。
平衡統計力学は、熱力学や量子力学と密接に関連しており、これらの理論を基にして物理現象を理解するための強力なツールです
平衡統計力学ではカノニカル分布を維持しているダイナミクスの部分については議論の対象にはしていない
イジングモデル(Ising model)は、統計力学や物理学で用いられる基本的なモデルの一つです。このモデルは、磁性体の相転移やスピン系の挙動を理解するために導入されました。以下のような特徴があります:
スピン: 各格子点にスピンが配置され、スピンは+1(上向き)または-1(下向き)の二つの状態を取ります。
相互作用: 隣接するスピン同士が相互作用し、同じ方向を向くとエネルギーが低くなるように働きます。
外部磁場: 外部磁場が存在する場合、スピンは磁場の方向に揃う傾向があります。
イジングモデルは、特に二次元の場合において、相転移現象を解析するための強力なツールとして知られています。例えば、低温ではスピンが揃って強磁性状態を示し、高温ではスピンがランダムに配置される常磁性状態を示します。
このモデルは、物理学だけでなく、経済学や生物学などの他の分野でも応用されています
イジング模型
スピン系のモデルとしては非常に単純化されたモデルであるが、相転移現象を記述可能なモデルであり、多くの物理学者によって研究されてきた[1]。単純なモデルであるため厳密な解析が可能であり、特に外部磁場の無い二次元イジング模型は厳密解が得られる可解格子模型の一種である。
イジング模型は1920年にドイツの物理学者ヴィルヘルム・レンツによって提案された[2]。イジング模型という名前はレンツの博士課程の指導学生でありこの模型の研究を行っていたエルンスト・イジングに因んでいる[3]。1944年にラルス・オンサーガーによって与えられた二次元イジング模型の厳密解は統計力学における金字塔の一つとされる[4]。
概要
イジング模型のハミルトニアンは次式で与えられる。J は交換相互作用定数、h は外部磁場である。
H=−J∑⟨i,j⟩σi⋅σj−h∑iσi
σi は(結晶)格子点 i 上のスピンで、+1(上向き)と -1(下向き)の2状態のどちらかを取る。1項目は隣接スピン同士の向きが揃おうとする相互作用を表し、⟨i,j⟩は最隣接する格子点のペアについてのみ和を取ることを意味する。2項目は外部磁場があるときに各スピンが外部磁場と同じ方向に配向しようとする作用を表す。
イジングの提案の段階で、一次元(格子系)での厳密な解は求められていて、有限温度での相転移を起こさないことが示されていた。その後、1944年にラルス・オンサーガーが二次元イジング模型の厳密解を求めた。これは相転移を起こし、この結果は相転移現象の記述と理解のために大変重要な役割を果たしている。オンサーガーの方法以外にも外部磁場のない二次元イジング模型の厳密解を求める方法がいくつか知られている。しかし、外部磁場のある場合の厳密解は得られていない。
三次元イジング模型の厳密解は知られていないが、共形ブートストラップを用いて解析的に臨界指数を求める試みがなされている[5] [6]。
厳密解以外にも平均場近似や繰り込み群、級数展開(低温展開、高温展開)の手法などによる近似解が知られている。と、これらを用いた数値計算手段を使って近似的に解かれる。
この模型は、結晶表面のラフニング転移や合金の規則‐不規則(秩序‐無秩序)転移、異方性の大きな磁性の問題などに応用されている。
1次元モデル
相互作用の減衰が α > 1 で Jij∼|i−j|−α であれば、熱力学的極限が存在する[7]。
- 1 < α < 2 で強磁性の相互作用 Jij∼|i−j|−α の場合について、ダイソン(Dyson)は階層を比較することにより充分小さな温度で相転移があることを証明した[8]。
- 強磁性の相互作用 Jij∼|i−j|−2 の場合について、フレーリッヒ(Fröhlich)とスペンサー(Spencer)は(階層の場合と対照的に)充分小さな温度で相転移があることを示した[9]。
- α > 2 の相互作用 Jij∼|i−j|−α の場合(このことは有限の範囲の相互作用を意味する)においては、自由エネルギー(free energy)が熱力学パラメータに対して解析的であるので、正の温度(有限の β)に対して相転移がない[7]。
- 近接相互作用の場合についてはイジング(E. Ising)がモデルの完全解を示した。任意の正の温度(有限の β)で、自由エネルギーは熱力学的パラメータの中で解析的であり、省略された 2点相関函数は指数的に急速に減少する。温度 0 (β が無限大)では、第二種の相転移がある。自由エネルギーは無限大となり、領略された 2点スピンの相関函数は減少しない(定数のままである)。従って、T = 0 はこの場合の臨界温度であり、スケーリング公式を満す[10]。
イジングによる完全解
(周期的境界条件、または、自由境界条件)近接相互作用の場合、完全解が存在する。周期境界条件を持つ格子 L の上の1次元イジングモデルのエネルギーは、
- H(σ)=−J∑i=1,…,Lσiσi+1−h∑iσi
である。ここに J と h は、この単純化された場合には J は定数で近隣間の相互作用の強さを表し、h は格子に適用された定数の外場であるので、任意の数値で問題ない。従って、自由エネルギーは、
- f(β,h)=−limL→∞1βLln(Z(β))=−1βln(eβJcoshβh+e2βJ(sinhβh)2+e−2βJ)
であり、スピン-スピン相関函数は、
- ⟨σiσj⟩−⟨σi⟩⟨σj⟩=C(β)e−c(β)|i−j|
である。ここに C(β) と c(β) は T > 0 の正の値の函数である。しかし、T → 0 とすると、逆の相関の長さ c(β) は 0 となる。
2024年11月14日 | カテゴリー:基礎知識/物理学、統計学、有機化学、数学、英語 |