α1アンチトリプシン欠乏症(難病)
α1-アンチトリプシン欠乏症
タンパク質分解 酵素 を阻害する作用をもつ血中のα1-アンチトリプシン(AAT)が欠乏することによって、若年性に肺気腫( 肺胞 の破壊)を生じ、 労作時呼吸困難 や咳・痰といった症状をきたすCOPD(Chronic Obstructive Pulmonary Disease:慢性閉塞性肺疾患)を発症する疾患です。気管支拡張症、肝臓の障害、皮下脂肪織炎などを発症する場合もあります。
45歳未満の若年者でCOPDを発症している場合、職業性の曝露のない非喫煙者で肺気腫を認める場合、COPDや原因不明の肝硬変の家族歴がある場合、皮下脂肪織炎の患者、 黄疸 または肝酵素の上昇がある新生児、原因不明の肝疾患を有する場合などが本症を疑う方です。
遺伝的素因によって、血中のAATが欠乏することが原因とされています。AATが減少すると、タンパク質分解酵素の働きが優位になり、エラスターゼを主としたタンパク質分解酵素により肺胞を構成する主要な結合組織であるエラスチンが破壊されて、肺気腫病変の形成に至りうると考えられています。
常染色体潜性遺伝(劣性遺伝) する疾患と言われています。原因 遺伝子の変異 の仕方によっても血中のAAT欠乏の程度が異なると報告されていますが、発症者の多くは喫煙者であり、喫煙も病状に強く関係していると考えられています。
労作時 呼吸困難、慢性の 咳嗽 ・喀痰が主な症状です。進行すると肺機能の低下から 酸素療法 を要することもあります。
タバコ煙や有害粒子の吸入曝露をしないことが重要です。COPDを発症している場合には、インフルエンザワクチン接種など感染予防、運動療法や栄養療法を行いつつ、病気の程度によって、気管支拡張剤を中心とした薬物療法、酸素療法、補助換気療法、外科療法などを選択することになります。重症例では、肺移植も選択肢の一つになることもあります。
2021年7月から、ヒトのプール血漿から精製されたAAT製剤を毎週1回点滴静注する補充療法が保険適応になりました。血清中に欠乏しているAATを点滴で投与して補充する治療法で、1987年に最初に米国で承認され、現在までに26カ国で実施されています。重症AATDと診断された患者さんで、慢性閉塞性肺疾患(COPD)や気流閉塞を伴う肺気腫等の肺疾患を発症している方に投与します。
肺気腫が進行すると、肺機能の低下をきたし、労作時呼吸困難など症状の増強、やがて低酸素血症から酸素療法を要するまでに至ることがあります。一般的には進行が早く、呼吸不全が死因になる可能性が高いとされています。しかし、日本では患者数が少ないこともあり、日本人AATD患者の臨床像や 予後 についてはよくわかっていないのが現状です。
喫煙・受動喫煙など有害粒子の吸入曝露を避け、特にCOPDを発症している場合には、感冒などの感染予防に努めることが必要です。筋肉が衰えぬ様、身体活動性を維持するために運動療法や栄養管理も大切です。
<認定基準>
Definite、Probableを対象とする。
α1-アンチトリプシン欠乏症の診断基準
A.症状(発症年齢、発症要因)
1.労作時息切れ。
2.喫煙の影響を、その発症要因からはほぼ外すことが可能であり、55歳未満で発症・診断。
B.検査所見
1.呼吸機能所見:
気管支拡張薬吸入後でもFEV1/FVC(一秒率)<70%
2.胸部画像所見
閉塞性換気障害の発症に関与すると推定される気腫病変、気道病変
3.血清α1-アンチトリプシン濃度
α1-アンチトリプシン欠乏症は血清α1-アンチトリプシン濃度<90mg/dL(ネフェロメトリー法)と定義され、
軽症(50mg/dL≦血清AAT<90mg/dL )、重症(血清AAT<50mg/dL)、の2つに分類される。
C.鑑別診断
以下の疾患を鑑別する。
通常の慢性閉塞性肺疾患(COPD)、気管支喘息、びまん性汎細気管支炎、閉塞性細気管支炎、気管支拡張症、肺結核後遺症、塵肺症、リンパ脈管筋腫症、ランゲルハンス細胞組織球症
D.遺伝学的検査
1.α1-Pi(SERPINA1)遺伝子
2.閉塞性換気障害の発症に関与していると推定される遺伝子変異。
<認定のカテゴリー>
Definite:A-1、2+B-1、2、3を満たし、Cの鑑別すべき疾患を除外しえたものであり、
B-3の血清α1-アンチトリプシン<50mg/dL。
Probable:A-1、2+B-1、2、3を満たし、Cの鑑別すべき疾患を除外しえたものであり、
B-3の血清α1-アンチトリプシン50mg/dL以上90mg/dL未満。
Possible:A-1、2+B-1、2を満たし、Cの鑑別すべき疾患を除外しえたもの。
AATD類縁肺疾患では、血清α1-アンチトリプシンの値は基準を満たさないが、D-2の未知の遺伝的素因により閉塞性換気障害を起こすと想定される。しかし現時点ではAATDの認定はできない。
2025年3月12日 | カテゴリー:呼吸器 |